食糧安保政策の理念【森島 賢・正義派の農政論】2022年10月24日
ウクライナ紛争を原因とする世界的な食糧危機、食糧価格の暴騰を前にして、政府は農政の憲法といわれる農基法の改正に乗り出した。農政分野における憲法改正である。
このため、農政審に検証部会をつくり、先月から検証を始めた。月2回、部会を開き、1年後に結論を出すという。旧農基法、現農基法につづく新農基法をめざしているようだ。
食糧安保にかかわる、これまでの農政の動きは、食糧安保を市場原理に任せて、政治はその責任から逃れようとするものであった。
それでいいのか。政治は、つまり国は、その最重要な責務である食糧安全保障の責務から逃げようとしてきた。それでいいのか。
この流れを断ち切り、食糧安保についての国家の責務を議論することが、検証部会に課せられた主題だろう。
上の図は、旧農基法と現農基法と、政府が目指している新農基法の主要な柱である。
旧農基法は、農工間格差の是正と、米麦農業から畜産・園芸農業への選択的拡大だった。ここには、農政へ市場原理主義を導入する萌芽があった。この農政のもとで、農産物輸入の拡大が行われた。
現農基法は、その第1で食料の安定供給の確保を謳っている。これは、食糧の安全保障とまぎらわしいが、そうではない。その方法は、国内生産と輸入と備蓄である。輸入を重視する安定供給である。その結果、実際の食糧自給率は40%を割り込むような惨状になった。これは、食糧安保ではない。
こうした農政の大きな流れの中で、新農基法は、何を目指すべきか。
◇
新農基法が目指すべき方向は、これまでの市場原理主義農政からの決別である。食糧安保を市場原理に任せるのではなく、政治の責任で保障することである。
政府が保障すべきことは、主食である米麦と、飼料である穀物、つまり穀物カロリーの確保である。それは、穀物生産の再生産の保障であり、穀物生産者に対する再生産費の補償である。そして、その結果としての国民への安価な食糧の供給である。
◇
これは、市場原理を全面的に否定する考えではない。市場には市場の優れた機能がある。農産物に対する国民の要求を、生産者に対して忠実に伝える機能がある。
この機能は、食糧安保にかかわらない農産物で活用すればいい。だが、この機能は食糧安保にかかわる農産物では機能しない。
この認識は重要である。
◇
さて、政府は食糧安保のための新農基法の議論を国民の理解のもとで進めたい、という。
だがそれは、消費者にたいして、食糧価格の高騰による家計の赤字を我慢せよ、というお願いではない。また、生産者にたいして、生産資材価格の高騰による経営の赤字を我慢せよ、というお願いでもない。
そうではなくて、政府の責任で、生産者の経営の赤字を抑え、消費者の家計の赤字を抑える、という考えに賛同を求めるという、国民にたいするお願いである。
検証部会は、政府の市場原理主義による食糧安保政策を改め、国家の責任を明らかにし、その考えを新農基法の立法の精神として鮮明に示すべきである。そうして、国民全体の理解を得て、そのための具体的な食糧制度を提案すべきである。
◇
最後に述べておきたい。
昨日の報道(日農)によれば、政府は食品店にたいして、食品の生産費が暴騰しているから、仕入れ値を上げて、その分を売値に転嫁せよ、といっている。
これは、ババ札の押し付け合いであり、国民の分断を深める下策中の最下策である。
上策は、生産費の暴騰分の、政府による補填である。そうすれば、生産者も消費者も赤字を解消できる。
(2022.10.24)
(前回 世界の親露派人口)
(前々回 農基法の基本問題)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
多収米の契約栽培で供給増へ 主食用米全体の安定供給にも寄与 JA全農2025年3月6日
-
貯金保険機構の保険料引き下げへ 有識者検討会に案を提示2025年3月6日
-
春の大玉スイカ出荷本格化 JA鹿本2025年3月6日
-
日本海側中心の大雪被害に早期の支払い JA共済連2025年3月6日
-
ニデック京都タワーに「北山杉」の木製品を寄贈 京都府森林組合連合会と農林中金大阪支店2025年3月6日
-
【人事異動】JA共済連(4月1日付)2025年3月6日
-
次世代の環境配慮型施設園芸の確立へ Carbon Xtract、九州電力、双日九州と実証事業開始 農研機構2025年3月6日
-
バイオスティミュラント新製品「ヒートインパクト」発売決定 ファイトクローム2025年3月6日
-
鳥インフル 米ワイオミング州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年3月6日
-
食用油の紙パックのリサイクルシステム構築 資源ごみとして静岡県裾野市で行政回収開始2025年3月6日
-
食品産業の複合展「FOOD展2025」10月開催 出展申込受付中2025年3月6日
-
果樹の新しい有機リン系殺虫剤「ダイアジノンMC」普及性試験を開始 日本化薬2025年3月6日
-
「オーガニック天平マルシェ」奈良・天平広場で開催 コープ自然派奈良2025年3月6日
-
野菜の機能性・健康効果に特化『野菜健康指導士』資格事業開始2025年3月6日
-
農林水産業専門の人材サービス「農業ジョブ」新機能リリース シンクロ・フード2025年3月6日
-
農薬がどの程度残りうるか 地理的・気候的条件から予測 岐阜大学2025年3月6日
-
農業に特化した就転職オンラインイベント「就農会議」参加者募集 あぐりーん2025年3月6日
-
乳酸菌発酵の力で肉を変える「乳酸菌発酵液」食肉事業者へ販売開始 明治2025年3月6日
-
日本生協連「くらしと生協」春アイテム「sweetweb.jp」で華やかに登場2025年3月6日
-
体験型野菜のテーマパーク「カゴメ野菜生活ファーム富士見」7日から営業2025年3月6日