【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】ジーンバンクを守れるか2022年11月10日
コロナ禍とウクライナ紛争で種の重要性がクローズアップされる最中、地域の伝統的な種を守り継承するジーンバンクに存続の危機が伝えられている。全国各地にジーンバンクを広げていくための支援体制の強化が検討され始めた矢先に、冷水を浴びせられるような事態の進行は大きな痛手である。早急な対応策が望まれる。
ジーンバンクの大きな役割
船越建明・西川芳昭「広島県農業ジーンバンクの歴史と未来」『有機農業研究』(2019)vol.11、 No.1により、ジーンバンクの意義を振り返ってみよう。
失われつつある農産物種子の保存とその再活用を目的として広島県農業ジーンバンク(以下ジーンバンク)が設立されたのは 1988 年 12 月である.「ローラー作戦」で県内くまなく回って収集された現在の保存点数は稲類約8,000、麦類約3,000、豆類約1,600、雑穀・特作物約1,000、牧草・飼料作物類約2,400、野菜類約2,600、合計18,600 点にのぼる。
国のジーンバンクも含め一般的には研究者や育種の専門家にしか種子は渡されないが、広島の農業ジーンバンクは、借りた農家が翌年、栽培の結果の報告に加えて配布を受けた種子と同量以上の種子を返却することを条件に、種子を貸し出してきた。2009 年から実施された「広島お宝野菜」プロジェクトでは、青大きゅうり、観音ねぎ、矢賀ちしゃ、川内ほうれんそう、笹木三月子大根などが、県内の農業生産法人等に有望な品種として提供され、地域活性化に繋げられた。
福山が原産地の青大きゅうりは、福山でも種子の入手がむずかしくなり、栽培者も消滅しかけていたが、ジーンバンクが種子を提供することで、旧世羅町で栽培が復活した。全国的に伝統野菜が人気を集めている。
広島の農業ジーンバンクは伝統野菜復活を支える重要な基盤として機能してきた。広島県が世界に先駆けて設立した、農家に直接遺伝資源を還元することができる地域農業の基幹的インフラである農業ジーンバンク事業の継続が切に望まれる。
以上が、船越・西川報告から抜粋した要約である。
国民的運動で存続の流れを
川田龍平議員が提案している「地域のタネからつくる循環型食料自給(ローカルフード)法」は、このような地域の在来の種を守るための財政措置の強化も大きな役割と位置付けている。
地域で育んできた在来の種を守り、育て、その生産物を活用し、地域の安全・安心な食と食文化の維持と食料の安全保障につなげるために、ジーンバンク、シードバンク、参加型認証システム、直売所、産直、学校給食(公共調達)、レストランなどの種の保存・利用活動を支え、育種家・種採り農家・栽培農家・関連産業・消費者が支え合う仕組みをローカルフード条例として制定し、自治体予算の不足分を国が補完する根拠法として検討されている。
この法案の早期成立を含め、国民全体でジーンバンクの存続のために、知恵を結集して行動に移す必要があるだろう。
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