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人口80億人時代とこの国のあり方【小松泰信・地方の眼力】2022年11月16日

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国連人口基金によると、世界の総人口が15日、推計で80億人を突破した。2011年に70億人を超えてから、11年間で10億人増えた。国連は急激な人口増加が社会経済発展の負担になっているとして、各国に警鐘を鳴らしている。(時事ドットコムニュース、11月15日19時40分)

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世界人口80億人突破がもたらすもの

毎日新聞(11月16日付)は、世界人口80億人突破に関連し、「人口増加は貧しい国が大部分を占めており、貧困の撲滅や気候変動との闘いなどに影響を与える可能性がある」と、国連が警鐘を鳴らしていることを伝えている。

同推計によると、中国の人口が約14億2600万人で世界最多、2位のインドは約14億1200万人。2023年にはインドの人口が中国を抜く見通し。ちなみに、日本は約1億2400万人で11位。

ただし、人口増加率は鈍化しており、90億人に達するのは2037年。80年代に104億人に達した後は横ばいで推移する見通し。

注意を要するのは、70億人から80億人の増加分の7割を低所得国と低中所得国が占めていること。さらに、80億人から90億人への増加分では、この2つのグループが9割以上を占めると予想されていることである。

このため国連のグテレス事務総長は、「世界の持てる者と持たざる者の間に横たわる大きな溝を埋めない限り、私たちは緊張と不信、危機と紛争に満ちた80億人の世界と向き合うことになる」と述べ、化石燃料に依存せざるを得ない人々への支援の必要性を示唆した。

国の内外を問わず、人口増は当然、食料需要が高まることを意味している。カロリーベース食料自給率が40%にも満たないわが国が、他国への食料依存度を高めることは、「飢餓の輸出」を意味することになる。人口減少国日本においても、食料自給率を高めることが求められる。

しかし、農畜産物を生産する現場は、コロナ禍とウクライナ侵攻の影響を受け、疲弊を極めている。

生産現場は、今を乗り越えることに苦労している

日本農業新聞(11月10日付)は、農業者を中心とする同紙農政モニターの政治・農政に関する意識調査結果(モニター1034人を対象に10月実施、回答者692人)を報じた。注目した調査結果は、次のように整理される。

まず岸田内閣については、「支持する」38.9%、「支持しない」59.7%。この調査でも支持率は低下している。

現政権の農業政策については、「大いに評価する」1.0%、「どちらかといえば評価する」29.3%、「どちらかといえば評価しない」43.6%、「全く評価しない」17.1%、「分からない」8.4%。大別すれば、「評価する」30.3%、「評価しない」60.7%。農業政策もまた、ダブルスコアで評価されていない。

岸田政権に期待する農業政策(3つまで)については、最も多いのが「生産資材などの高騰対策」46.4%、これに「米政策」39.5%、「担い手対策」31.8%が続いている。

生産資材の価格高騰や人件費の上昇が農業経営に与える影響については、「大きな影響がある」56.8%、「やや影響がある」25.0%、「影響はない」3.9%、「分からない」10.3%。8割以上のモニターが影響を受けている。

必要な生産資材高騰対策(2つまで)については、最も多いのが「生産資材の価格補填」67.3%、これに「農畜産物の値上げ(価格転嫁)の理解促進」42.6%、「生産コスト低減技術や機械の導入支援」29.8%が続いている。

一刻も早く、打てる手を打たない限り、離農が進むこと、間違いなし。当然、食料自給率は低下する。

人口減を恐れず成熟社会を目指す

「世界の人口が80億人を突破する中、日本は少子高齢化が進み人口が減り続けています。このまま人口減少が続くと、日本はどうなるのか。世界に先駆けて直面する高齢化に、どう対処したらよいのか」という問題意識から、広井良典氏(京都大学人と社会の未来研究院教授)に行ったインタビュー記事を朝日新聞(11月16日付)が報じている。

広井氏は、「日本の人口がある程度減るのは避けられません。(中略)欧州に目を向けると、英国やフランス、イタリアの人口は6千万人。面積はイタリアが日本と同じくらいで、英国は小さく、フランスは大きい。1億人超の日本は過密とも考えられます。今の人口水準を保たなければならない絶対的な理由はありません」と明快。

人口や経済の拡大信仰を「いわば昭和的な価値観」としたうえで、「拡大・成長から脱却し、新しい成熟社会に移行するチャンスです。集団で一本の道を上っていくのではなく、それぞれが個人の人生を設計できるような持続可能な社会を作る必要があります」と、この国のあり方を提起する。

具体的には、2017年の共同研究から、都市集中型社会を「持続可能性や格差の観点からいうと、望ましいとは言えない社会」としたうえで、札幌、仙台、広島、福岡への人口集中が進んでいることを「少極集中」と呼び、これを「多極集中」(国内に多くの極となる都市や地域があり、それぞれがある程度集約的な都市構造になっているような姿)にしていくことが望ましいとしている。

その実現のために必要なこととして、「若い世代が各地の町づくりや環境など、ローカルなことがらへの関心を高めています。そのような動きに注目し、支援すること」をあげ、「個人がもっと自由度の高い形で自分の人生をデザインできるような、環境・福祉・経済のバランスのとれた成熟社会への移行期に、今の日本はある」と締めている。

「成熟社会」のヒントは地域の再生にあり

広井氏の指摘は、日本農業新聞のモニターの意識と矛盾するものではない。

前述の意識調査結果において、地方の活性化対策(2つまで)についての回答結果で、最も多いのが「地方への移住、定住対策」44.5%、これに「地方への財政支援」32.2%、「半農半Xやマルチワーク(複業)など多様な働き方の支援」25.3%などが続いている。

地域住民が移住者や地域おこし協力隊員とともに、地域の再生に動いている地域は多い。「成熟社会」のヒントはそこにある。

その実現のためにも、生産基盤を何としても強化しておかなければならない。意識調査で問われた生産基盤強化政策(2つまで)について、最も多いのが「所得補償の導入」36.6%、これに「担い手の経営安定対策やセーフティーネットの充実」33.4%、そして「消費者の農業理解(国消国産や地産地消の推進など)」29.3%が続いている。

これらの政策はいずれも、国土と国民を守り抜くためには不可欠な政策であることを、政治家は肝に銘じるべきである。

「地方の眼力」なめんなよ

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