図説―社会主義と資本主義【森島 賢・正義派の農政論】2022年11月21日
岸田文雄首相は、その主要な政策に「新しい資本主義」を大きく掲げている。だが、その内容が分からない。いまの資本主義には欠陥があるので、それを新しく是正するというのだろう。
「新しい資本主義」と大上段に構えているのだから、あれこれの欠陥の弥縫策を考えているのではないだろう。資本主義を、その根本にまで遡って是正するというのに違いない。
まさか、深淵な経済思想のように装って、実は浅薄な思い付きを口走っているのではない、と考えよう。
では、資本主義にどんな欠陥があって、どのように是正するというのか。どの方向へ向けて是正するのか。その内容が分からない。分からないのは、内容が無いからではないか。
上の図は、資本主義と社会主義を分ける根本的な基準である生産段階における政治、つまり社会の役割と、私人である資本家の役割の大きさについての図である。
左側へいくほど社会の役割が大きい。だから、社会主義という。右側へいくほど資本家の役割が大きい。だから、資本主義という。
左端は純粋な社会主義で、生産段階から私人を排除して、全てを公人である社会に支配を委ねる、という考えである。右端は純粋な資本主義で、生産過程における支配を、全て私人である資本家に委ねる考えである。
もちろん、こんな純粋な主義を守っている国はない。全ての国が、その中間に位置している。図の中の地域の位置づけは、筆者の総合的な判断によるものである。
◇
さて、「新しい資本主義」である。その最優先の課題は、構造的な賃上げだという。その具体的な内容は、労働生産性の向上と、高い生産性を得た労働者が円滑に移動できるようにするための、官民協力による労働市場の改革だという。
これは、取り立てて「新しい」ことではない。これまでの資本主義が、続けてきたことである。しかし、無残な失敗の連続だった。つまり、賃上げどころか賃金を下げ続けてきた。そして、経済を委縮させてきた。
「新しい」と言いたいのなら、「新しい」労働市場改革が必要なのである。
◇
新しい労働市場改革は、官民協力ではなく、官主導、つまり、政治主導による改革でなければならない。
そして当面、その具体的な内容は、生産段階での非正規雇用の規制であり、最低賃金の大幅な増額である。
◇
この政治主導の労働市場改革が意味することは、前の図でみた生産段階への政治の介入の強化である。それは、社会主義へ向かう方向である。
それこそが、「新しい資本主義」の名にふさわしい政策だろう。そうして、低賃金、格差、分断を、所得の再分配という弥縫策ではなく、それが発生する根源、つまり生産段階で断ち切るかどうか、である。
そうした、生産現場に根を張った激しい議論が、政治に、つまり与野党に厳しく求められている。
(2022.11.21)
(前回 食糧安保の俗論を嗤う)
(前々回 食糧安保の俗論を排す)
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