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【浅野純次・読書の楽しみ】第80回2022年11月23日

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◎佐々木実『今を生きる思想 宇沢弘文』(講談社現代新書、880円)

宇沢弘文さんが亡くなってもう8年になります。農協新聞にもたびたび登場され、農業関係のパーティーにもよく顔を出されていました。日本の農業に深い関心を抱き続けておられたのだと、白く長いひげに包まれたあの温かな容貌を改めて思い浮かべます。

著者の宇沢論は2冊目ですが、今回の新書はコンパクトな割に内容が充実しており、闘う宇沢さんの姿が生き生きと濃密に描かれていて、初めて知ることも多々ありました。

フリードマンには晩年まで戦闘意識を燃やし続けていた宇沢さんですが、本書でもまずシカゴ学派との対決、そして新古典派経済学全体への異議申し立て、三里塚や水俣における被害者への寄り添い、名著『自動車の社会的費用』に象徴される宇沢経済学の確立と、話はドラマチックに展開していきます。

そのように考えると、本書は主に経済学者としての宇沢さんを描いている傾向が強いので少し難しい個所もあるかもしれません。

とはいえ学者としても行動家としても人間味にあふれた宇沢さんの人物像を描き出していて、改めてその魅力に気づかされます。という以上に、人間らしく生きる権利が脅かされるとき、人間はどうあるべきかを学ぶ良い教材でもあります。

◎坪内千佳『ファーストペンギン』(講談社、1650円)

書名と同じテレビドラマ(日本テレビ系)をご覧の方もおられるでしょう。本書はその原作とはいえ、そして大筋こそ同じでも、テレビでは物語はだいぶ脚色されています。

本書の著者は、ドラマに出てくる男勝りのシングルマザーです。ひょんなことから漁師の仲間となって、ファーストペンギンの役回りとなります。ペンギンは常に群れとなって行動し、リーダーはいないのだそうですが、危機を察知した最初のペンギンが飛び出すと一斉にそれに従って行動するのだとか。

確かに著者のベンチャー精神はたいしたもので、漁こそしないものの知恵を絞り、営業に飛び回り、仲間たちを励まし八面六臂の活躍をします。

山口県萩市の沖合にある小さな島の漁村の物語は、決して特殊な世界の物語ではないのでしょう。漁師の親玉で船団長の長岡さんという人物が本書でも準主役で、話を面白くさせてくれる功労者です。ビジネスに関わる人々には、テレビドラマよりも多くのヒントを与えてくれます。

◎高野秀行 『語学の天才まで1億光年』(集英社インターナショナル、1870円)

ちょっとわかりにくい書名ですが、「語学の天才」にはほど遠いという謙遜のようでもあります。とはいえ著者は大学の探検部員としてこれまで誰も行ったことのないような僻地へ入り込むために少数民族語とでもいう言語を次々に習得します。

その苦労話や現地の人々との交流などが語られて面白いノンフィクションに仕上がりました。フランス語、イタリア語、中国語なども勉強するのですが、これはどちらかというと情報を伝えるため、名前さえ聞いたことのないその他の言語は現地の人々と親しくなるためだそうです。

例えば謎の怪獣を探しにコンゴとザイールへ出かけて学んだリンガラ語をめぐるお話は常識外れに面白い。

ミャンマー奥地での秘境の言葉ワ語も奇想天外だし、世界は広いなぁの一語ですね。世界を知りたい人、コミュニケーションツールとしての言語というものに興味を少しでも持たれる方ならとくに楽しめるはずです。

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