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食糧安保の俗論を朝日の社説に見る【森島 賢・正義派の農政論】2022年11月28日

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新聞各社の社説には、最近、食糧安保についての俗論があふれている。
食糧安保論は、いうまでもなく安全保障論の食糧編である。そして安全保障論は、キナ臭い議論である。各国は、国際紛争が起きたときに備えて、平時から自国の安全保障を最重要視している。
その食糧編の食糧安保論も、食糧が第3の武器といわれているように、本来はキナ臭い議論である。各国は平時から、その確保に憂いなきよう、万全を期している。
だが、報道各社の社説にみる食糧安保論は、どれもが、緊張感のない呑気な俗論である。安全保障よりも経済が大事、と主張している。そして、農業者に犠牲を要求している。
ここでは、朝日新聞の社説を取り上げよう。先週22日の『食料安全保障_地に足をつけた議論を』と題する社説である(文末にそのアドレスを示した)。
文中の括弧『』の中は、引用部分である。

この社説は、冒頭のところで『・・・日本でも食料安全保障を強めようという議論が起きている。起こりうる事態への備えは必要だが、手法によっては過剰な農業保護につながる懸念もある。』としている。

これが、この社説の根底にある考えである。食糧安保も必要だが、農業保護の削減のほうが、もっと必要なことだ、という考えである。政策の順位として、農業保護の削減が上位にあって、食糧安保はその下位にある、という考えである。

しかも、日本の農業保護は、主な先進国のなかで最低だ、という事実も知らずに、過剰だ、という誤った認識がある。

つづいて『小麦の国際市況が高騰する中で、コメへの切り替えが進むのは、経済的にも合理的だ。政府が販路拡大を支援するのも一定の範囲なら否定しない。』といっている。

これは食糧安保とは縁もゆかりもない。小麦の国際価格が元に戻れば、コメへの切り替えは不合理になる。

食糧安保の問題として考えるのなら、販路拡大などという流通段階の問題ではなく、生産段階の問題として、その根幹から考えるべきものである。

だが、それには反対のようだ。『自民党や農協は、輸入依存が高い小麦や大豆、トウモロコシの増産支援の強化も求めている。・・・こうした動きには、大きな懸念がある。』つまり、コメ以外の穀物の増産支援には反対のようだ。

また、『政府は・・・コメ農家の転作を促してきた。しかし、効果は乏しく、耕作放棄地の拡大は食い止められていない。』という。

これは、政府の転作の促進策が不十分だったからである。このことには、目を向けない。

そうして、『国内の生産基盤を守るためには、担い手になる若い就農者を増やすのが先決だ。・・・(それ)こそが、政府の役割だろう。』という。

だが、そうではない。食糧安保のために懸命に努力している全ての農業者が、人並みの生活を楽しめるように、生産費を保障することこそが本道である。

最後に加えておこう。『農業適地が限られた日本で、平時からすべての食料を自給するのは現実的ではない。』という。

これは、食糧安保軽視論者の決まり文句であり、議論をそらして思考を停止するものである。「良識の朝日」は、ここまで堕ちたか。

食糧安保重視論者は、すべての食糧を自給せよ、などと主張していない。いまの38%の食糧自給率を、せめて先進国並みの70―80%に引き上げよ、といっている。

(2022.11.28)

(前回   図説―社会主義と資本主義

(前々回  食糧安保の俗論を嗤う

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