「和食」文化を、国、地域をあげて育てよう!【JAまるごと相談室・伊藤喜代次】2022年11月29日
フランス人のワイン消費激減と食文化の変化
A・ライフ・デザイン研究所
代表 伊藤喜代次
11月17日はボジョレーヌーボーの解禁日。今年のボジョレー地域の夏の気温は安定して上昇、グレートヴィンテージといわれた2015年や2020年をはるかに上回る出来で、「過去100年で最良のヴィンテージを更新するかもしれない」と高い前評判でした。どうだったのでしょうか。残念ながら、私はこの数年、ボジョレーの新酒を味わっていませんが。
1980年代後半、わが国がバブル経済に沸いていた時期、ワインブームが盛り上がり、90年代はボジョレーヌーボーが全盛期。2004年にピークを迎え、以降、この騒ぎは徐々に後退していきます。近年は、最盛期の4割程度です。
以前、ワイン輸入の関係者の「ボジョレーヌーボーはワインの消費拡大のためのイベントです。長くワインに親しむお客様を広げる一大キャンペーン。ですから、中瓶(375ml)がけっこう売れるんです」という話を思い出しました。
ボジョレーの効果だけではないでしょうが、わが国のワイン消費は、確実に広がっています。ワイン消費量、輸入量、国産の生産量、ワイン関連の数値は、伸びています。ちなみに、ワイン消費量は、30年前の約3倍、10年前の約1.5倍です。
ところで、10年ほど前、フランス北東部のストラスブールに数日滞在しました。ドイツの国境に近いライン川に面した歴史と文化の美しい町。人口28万人ですが、ヨーロッパでは広く知られています。というのは、欧州評議会や欧州議会の本会議場、欧州人権裁判所などが置かれているからです。
フランクフルトからドイツ国際高速列車ICEで2時間余り。早々に仲間とバーで一杯。すると、周囲のテーブルの客は全員がビール。ドイツに近いからだろうと思いましたが、その後、レストランでもワインを飲んでいる客は少なく、不思議に感じました。
フランスは美食の国、ガストロノミー(美食術)といわれる多種多様な料理のレシピ、地元産中心の高品質な素材、多様な素材の味覚のハーモニー、料理とワインの組合せ、テーブル・デコレーションなど、フランス料理の一体が、2010年にユネスコの無形文化遺産に登録されています。
食を楽しみ、こだわりを持つフランス人のワイン消費量は増えているのだろうと調べてみると、ビックリ仰天。フランスの1人当たりの年間ワイン消費量は、1950年が124l、80年は95l、2000年は58lに半減し、2020年では40lと1950年比3分の1に減少、40年でも半減以下になっています。日本同様、フランスの食生活も大きく変化しているのです。
フランスの食事情を知る友人は、最近は、毎日ワインを楽しむ家庭は大変少なくなったこと、パーティーでのワイングラスでの乾杯はほとんどしない、レストランやバーでも、リーズナブルで手軽なビールが一番人気、と説明してくれました。
資源豊富な「和食」、輸出で他産業とともに農家所得につなげたい
フランスのガストロノミーだけでなく、世界遺産にワイン産地も登録されています。1999年にボルドー地方、2015年にはブルゴーニュ地方とシャンパーニュ地方が、ぶどう畑や周辺の都市・街並み、歴史的建造物などとともに登録されています。
そういえば、フランスとワインの状況は、日本とよく似ています。日本は、2013年(平成25年)、「和食;日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。また、わが国の日本酒の消費量は(清酒の課税移出数量でみると)、1973年度(昭和48年)のピーク時177万klが、2020年度(令和2年)度には41万klへと、フランスを上回る急激な減少(わずか50年で4分の1へ)となっています。
ところが、日本との決定的な違いは、伝統的な美酒であるワインとブランデーなどのスピリッツは、国の一大輸出産業に育ててきたことです。さすがに、コロナ禍で2020年は減少しましたが、フランスでは、航空・宇宙分野に次ぐ、堂々の輸出産業です。2019年の輸出額は151億ドル(2兆1,140億円、1ドル140円換算)、全輸出額の4分の1を占めています。これに、チーズを加えると、約3割に達します。
この点は、日本も大いに参考にしたいものです。和食が、ユネスコ無形文化遺産に登録され、早10年に。国内の理解やPR活動はなかなか進んでいないように思います。一方で、2021年の農林水産物・食品の輸出実績は1兆2,385億円で、前年比25.6%と急激な伸びを示しています。このうち、加工食品が4,600億円で37%を占めていて、食肉などの畜産物は1,140億円(9.2%)、野菜・果物570億円(4.6%)、水産物2,300億円(18.6%)という実績です。輸出資源としての可能性を感じます。
最近、政府や文化庁が、伝統的な酒造り技術の保護など日本酒、焼酎・泡盛等のユネスコ無形文化遺産登録に向けた取組みを始めています。しかし、政府に期待したいのは、日本の果物や食肉、加工品などの輸出の実績の検証と戦略づくりです。輸出による農家の収入や所得に結びついているのかどうか。今後の需給や海外市場へのアプローチをどうするのか。農畜産物の輸出に関するトラブルやリスクも耳にします。それらを検証しながら、新たに"和食"を核にした農畜産物・和食関連産業トータルな戦略的海外市場展開を再検討し、省庁や業界の壁を取り払って、具体的な動きにしてほしいですね。円安を活用して、という考え方もないではないが。
農業者だけでなく、食に関わる調理器具・設備など多種多様な業界、中小零細企業の潜在的な可能性をも深掘りして、日本の産業振興につなげたいものです。
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