【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】農業競争力強化支援法でなく弱体化法2022年12月1日
第193回国会 農林水産委員会 第7号(平成29年4月6日(木曜日))。
農業競争力強化支援法案に対する参考人質疑における問題提起は、今もそのまま当てはまる。以下、鈴木宣弘の発言の一部を紹介する。
私が全体として思いますのは、この法案というのは、農業競争力強化ではなく弱体化法案になりかねない要素を含んでいるというふうに思います。
本法は、そもそも、農業競争力強化プログラムに基づく八法案の一つで、その底流には、民間活力の最大限の活用という表現で、規制緩和すれば全てがうまくいくという、時代に逆行した短絡的な経済理論を名目に掲げ、その裏には、既存の組織によるビジネスやお金をみずからの方に引き寄せたい、今だけ、金だけ、自分だけの人たちの三だけ主義の思惑が見え隠れしております。
国民が求めているのは、アメリカを含む一部の企業利益の追求ではなく、自分たちの命、環境、地域、国土を守る安全な食料を確保するために国民それぞれがどう応分の負担をしていくかというビジョンと、そのための包括的な施策体系の構築です。競争は大事ですが、それに対して、共助共生的システムとその組織、農協や生協の役割、そして消費者の役割、政府によるセーフティーネットの役割などを包括するビジョンが本法にはありません。
それから、そもそもコストダウンだけが競争力強化であるかのような視点も間違いだと思います。
強い農業とは何でしょうか。規模拡大してコストダウンすれば強い農業になるでしょうか。それはもちろん大事ですけれども、それだけで頑張っても、オーストラリアやアメリカに一ひねりで負けてしまいます。同じ土俵では戦えません。少々高いが徹底的に物が違う、あなたのものしか食べたくない、そういう本物を提供する生産者と理解する消費者とのネットワークこそが強い農業の源です。
スイスでは、一個八十円もする卵を小学生ぐらいに見える女の子が買って、これを買うことで生産者の皆さんの生活が支えられ、そのおかげで私たちの生活も成り立つんだから当たり前でしょうと、いとも簡単に答えたといいます。
スイスでは、ミグロという生協さんが食品流通の大きなシェアを持っていて、農協さん等と連携して、消費者と生産者が納得できる本物の基準を認証して、その価値を価格に反映させることに成功しております。こういうふうな消費者サイド、生協さんからの働きかけによる取り組みなどについてもしっかりと支援するということも本法に位置づけるべきではないでしょうか。
それでも、スイスの農業所得のほぼ100%、フランスでも95%が補助金で賄われているというのが実態です。環境、景観、動物愛護、生物多様性など、農業の果たす多面的機能の項目ごとに、具体的にこのぐらいの応分の負担をしていこうということがしっかりと理解されておりますので、国民も納得して払えるし、農家も誇りに思って生産に臨める。このようなシステムは日本にはありません。
さらに、アメリカでは、農家にとって最低限必要な所得は政府が補填するから、そういう水準になったら政策を発動するので安心して投資をしてくださいという予見可能なシステムを完備しております。これがまさに食料を守るということではないでしょうか。農業政策は農家保護政策ではありません。国民の命を守る安全保障政策です。こういう本質的な議論なくして、食と農と地域の持続的発展はありません。
そういう意味で、我が国の収入保険というものは、米価が下がるたびに基準収入が下がっていく底なし沼で、生産コストの上昇も全く考慮されないのでは、セーフティーネットではないということを言わざるを得ません。
盲目的なアメリカ追従とまで言われているのに、なぜアメリカのすぐれた農業戦略を、食料戦略をまねしないのですか。ただでさえ、全く規模の違うアメリカ農業が徹底した農業競争力強化策を行っているのに対して、我が国はセーフティーネットはなくし、コストダウンだけで競争すれば勝てるというのは、実は家族農業がほとんどなくなってもいいという議論になるのではないでしょうか。欧米のような食料戦略はなく、単に競争を促進すればうまくいく、そして、それは一部の農業に参入したい大手企業等には都合がいい、そういうふうな視点になってしまっていないでしょうか。
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