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(311)喉元過ぎれば...【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2022年12月9日

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肥料の3要素、窒素(N)、リン酸(P)、カリ(K)は良く知られています。窒素は植物の葉、リン酸は花や実、カリは根の発育を促すというのが一般的な理解です。これら肥料原料の価格高騰、少し視点を長く取り、考えてみました。

先日、大学の講義で「ワーキングプア」という言葉を紹介したところ、興味深い反応が出た。何名かから「聞いたことが無い」との反応である。少し調べたところ、この言葉は1990年代に米国で広まり、日本では2000年代半ば以降に広がったという。

対象講義の履修者は19~20歳である。一方、「ワーキングプア」をタイトルあるいはその一部とした書籍は2000年代後半以降に多く出版されている。筆者には10数年前のことでも、10代の大学生には小学生の頃の話である。無理もない。これは筆者の準備不足の可能性が高い。反省点である。

ところで、どうも同じ感覚で見た方が良いと思われる問題が、最近の肥料価格高騰の話だ。年初から肥料価格の高騰は各所で報じられ、実際に農家経営にも大きな影響を与えている。ここで指摘したい問題は、肥料原料の需給ではなく、我々は「喉元を過ぎれば熱さ忘れる」ということわざのような感覚に再び陥る可能性がある点だ。

気持ちの中の「引っ掛かり」を整理するため、世界銀行が公表している肥料価格を1960年1月から洗いなおしてみた。リン鉱石、そしてリン安(リン酸アンモニウム:DAP)の毎月の価格をグラフに落としたものが下記である。

リン鉱石とリン安の価格推移

これを見ると、確かに最近のリン鉱石価格の上昇は凄まじい。だが、2008年にも現在以上の価格高騰に見舞われていたことがわかる。月別の価格は、2006年12月はトン当たり44ドル、1年後の2007年12月には71.5ドルになり、2008年6月には190ドル、さらに10月には450ドルの過去最高値を付けた後、この水準が2009年3月まで半年間続いた後に下落し、2009年7月には70ドルとなっている。

今から14年前のこの時期、何があったか、すぐに思い出せる方は意外と少ないかもしれない。この年の5月、中国四川省で大地震が発生している。言うまでもないが、中国は世界最大のリン産出量を誇る(埋蔵量はモロッコが最大)。これがひとつ。さらに9月に入るとリーマンショックが世界を揺るがした。そう、あの年である。

そこでもう少し調べたところ、(一社)リン循環産業振興機構(PIDO)の大竹久夫氏による興味深い資料(注1)が公開されていた。詳細は下記のアドレスを参照してほしいが、そこには2008年のリン危機の状況が詳しく記されている。以下をじっくりと読んでほしい。

「この混乱の中、わが国は肥料は何とか前年並みに確保したものの、リン酸やリン酸塩などの工業用のリン製品は十分に確保できなかった。しかし、その年の9月思いもかけず、米国発の金融危機リーマンショックが勃発し、世界の実態経済は減速し原材料の需要も急降下した。皮肉にも、2008年のリン危機はリーマンショックにより救われた。国や産業界が根本的な対策を取る間もなく危機は去り、やがて何事もなかったかのように忘れ去られた。」(注2)

リーマンショックは思いがけぬ支援を与えたということになる。この資料によれば、その後2016年、中国はリンを国家の戦略的鉱物に指定し管理を拡大した。一方、日本は中国への輸入依存度を高めた状況の中で今回の危機に直面したことになる。

大竹氏はこの問題の解決策として、日本国内にある未利用リン資源の活用を提案している。製鋼スラグ、下水汚泥、家畜ふん尿などの中に含まれる未利用リン資源の合計数量は24万トンに達するという。遥か外国からかき集めることと、国内の未利用資源を活用することのバランスと経済性、さらには時間との兼ね合いなど、早急に解決すべき課題が多い。やむを得ぬ場合は他国から調達するにしても、様々な分野で国内の未利用資源の活用について、より真剣かつ現実的に考えるタイミングとなってきたようだ。

* *

10数年前の教訓、しっかりと活かしたいものです。

(注1)大竹久夫「繰り返されるリン危機-深刻化する実態と求められる根本的対策」、(一社)リン循環産業振興機構、2021年度第8回セミナー要旨(2022年1月19日開催)。アドレスは、http://www.pido.or.jp/PIDOseminar2022119.pdf (2022年12月6日閲覧)
(注2)大竹前掲、1-2頁。

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