「国防」とは壊国から守ること【小松泰信・地方の眼力】2022年12月28日
「直面する歴史的な難局を乗り越え、わが国の未来を切り開くための予算」と、12月23日に閣議決定された2023年度の政府予算案を自画自賛するのは、もちろん岸田文雄首相。
防衛費拡大を疑え
一般会計の歳出総額が114兆円を超え、11年連続で過去最大。これに、12月初めに成立した一般会計規模が28兆円に上る本年度第2次補正予算の執行の大部分が来年度に回ることを考慮に入れ、「大盤振る舞いが過ぎるのではないか。財政規律の緩みは目に余る」と憤るのは、西日本新聞(12月25日付)の社説。
「歳出が膨らんだ最大要因は防衛費の増額である」としたうえで、「国債による財源調達は防衛費の際限ない拡大につながりかねない。再考すべきだ」としている。
当コラム、ここで社説子に問いたい。社説子が「再考すべきだ」とするものは、財源調達の方法か、それとも防衛費の拡大化か。
確かに各種世論調査は、「防衛費の拡大やむなし」の傾向にある。しかし、ウクライナ侵攻から始まって、中国や北朝鮮の軍事的情報を、これでもかこれでもかと垂れ流されれば、この傾向も不思議ではない。情報操作で創りあげられたニセ民意を笠に着て、国民にも国会にも問うことなく財源論に直行する政治手法は民主的政治手法ではない。ゆえに、「防衛費の拡大から再考せよ」と訴えていることを願っている。
さて社説は、「予備費が本年度当初と同じ5兆円もの規模になったことも見過ごせない。政府の判断だけで支出でき、無駄遣いの温床との批判が根強い。財政規律の問題はここにも表れている」と、政権の意のままとなる財布の在り方にも言及する。
さらに、「来年度末の国債発行残高見込みは1068兆円となる。債務残高の国内総生産比は先進国で突出して高い。過度に国債に依存する財政運営は、金利が急上昇すれば維持できない。政府や国会はこのリスクを真剣に捉えるべきだ」と警鐘を鳴らす。
真の国防を問う
「国の政策について不快感とあきらめを感じる日々が続いています。安全保障は軍備だけではなく、エネルギー、食料の確保が欠けては成立しないことは、ウクライナで明らかにされました。1億2千万人の食料とエネルギーを全て自給することは究極的な目標ですが、耕作放棄地をなくし、農地転用により、巨大ショッピングモールを作らせることを止め、環境に負担をかけない営農技術の導入により、農地、林地を最大限活用するのは今しかないと考えます。また、『コンパクト・シティ』なる言葉も流行しているようです。中山間地から地方の中心市街地に移住させて効率的な行政サービスを提供するのだそうです。全くもって亡国の議論で不快です」とは、当コラムの愛読者K氏(JA関連団体職員)からのメッセージ。
日本農業新聞(12月26日付)で、山口二郎氏(法政大教授)は、国防を「狭義国防」(軍備増強で防衛力が強化できるという立場)と「広義国防」(経済的生産力を強化し、国民生活を安定させて国力を充実させることが防衛力の源泉とする立場)に分け、広義国防のあるべき姿についての議論の必要性を説いている。
そのうえで、「今や、日本人の所得は停滞し、円安も相まって、金に物を言わせるなどという話は遠い過去のものとなった」として、「自分が食べる基本的食料はなるべく自国で生産することこそ、安全保障の土台である」とする。
この観点から、2023年度の政府予算案を見ると、狭義国防に該当する防衛費は、過去最大の6兆8219億円(米軍再編経費などを含む)。22年度当初比1兆4214億円の大幅増。一方、広義国防の中核に位置する農林水産関係は2兆2683億円。22年度当初比94億円の減。両者の差は歴然としており、K氏が憂える亡国の国政が展開されている。
鈴木宣弘氏(東京大大学院教授)も農業協同組合新聞・JAcom(12月21日付)で「お金を出せば食料と生産資材が海外から買える時代は終焉した。不測の事態に国民の命を守るのが『国防』というなら、国内農業振興こそが安全保障である。防衛費を5年で43兆円、1年間で今の2倍になるよう5兆円増やす議論の前に、財務省の縛りを打破して、食料にこそ5兆円の予算を付けられるようにするのが基本法改正でやるべきことだろう」と、「国防としての農業振興」について力説する。
壊国の気配
「今こそ、現下の政治を正さねばならない」との意を強くしたとき、目に入ってきたのが、「政治を正さなければ日本は良くならない 松下政経塾 松下幸之助」の大看板。これが掲げられているのは、仙台市にある秋葉賢也復興大臣の事務所。
毎日新聞(12月27日13:21配信)によれば、秋葉氏は27日、首相官邸で岸田文雄首相に辞表を提出し、受理された。公職選挙法違反などの疑惑が指摘されており、事実上の更迭。
氏は首相との面会後、官邸で記者団の取材に応じ、首相に辞表を提出したことを説明。「政治とカネ」を巡る問題については「事実誤認に基づく報道があったのも事実だ。私自身に関することについては違法性は何一つなかったと思っている」と述べたそうだ。この期に及んでまだ白を切る「疑惑のコンビニエンスストア」。実質的更迭で終わったわけではない。白を切っている以上、白黒を付けるまでやるしかない。
さらに、共同通信(12月27日13:27配信)が、性的少数者を巡る過去の不適切な表現が批判された杉田水脈総務政務官(衆院比例中国)も続いて辞表を提出したことを伝えている。こんな連中しか大与党にいないとすれば、この国は自壊(壊国)間近。
いい機会だから明らかにしておく。彼女が2021年の衆院選で比例中国ブロック単独で立候補した時、中国地方某県でJAの女性組織を長年リードしてきた方に、「女性はいくらでもうそをつけますから」というような発言の主は、「みなさんのこれまでの運動と相容れない方だが、それでも支持するのですか」という趣旨の疑問を投げかけた。
大与党の熱烈支持者であるその方の答えは、「党の上の方が決めたこと。彼女の言動には疑問を感じていたが、直接話を聞き、まずは彼女の弁明を受け入れた」といった内容。思わず手に持っていたスプーンを投げ出した。わかるかな?
大政翼賛に与せぬ覚悟
「忖度が浸透して、金子勝、浜矩子、田代洋一といった論客たちの名が見られなくなってきました。農業関係の報道も、もうかる農業一色。鈴木宣弘さんが頑張っていますが、これも危うい。小松先生もご用心ください。大政翼賛とはこういうことか、と思いつつ......の日々です」とは、今年逝去された山下惣一氏(農民作家)からの賀状の一節(平成30年1月10日の消印)。
ハイ! 前から来る弾だけではなく、後ろから来る弾にも気を付けて書き続けます。お守りください。
「地方の眼力」なめんなよ
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