「開発」に振り回され 農林地の変化【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第221回2023年1月5日
前回述べた私たちの上北機械開墾事業の調査から3年後、入植開始から13年後の1969年、機械開墾地域の一部が入っている六ヶ所村に石油精製、石油化学などの基盤産業を立地させるという「むつ小川原開発」構想が発表された。
とたんに不動産業者が村にむらがり、土地の買占めに走った。地価は何倍にも跳ね上がった。苦労していい土地にしたのに開発とは何事かと反対する農家もあって開発計画は縮小したが、多額の借金をかかえた多くの農家は高地価の誘惑に負け、また誘致されるであろう企業への就職に希望をもって、土地を手放した。
マスコミはそれを見てはやしたてた、草地の真ん中に和洋折衷風の立派な御殿がたくさん建っていると。そして土地を売った農家を嘲笑った。
建築業者の甘いささやきにのって建てたのだろう、たしかに異様だった。
しかし私は笑えなかった。入植以来の惨めな住居、他方でのテレビなどで見る都市住民のいわゆる「近代的」な住居、この隔絶を思いっきり埋めたい、これまでの苦しさを忘れさせるような、子どもたちが威張れるような立派な家を建てたい、こう考えるのも無理はないと思ったからである。
それから20年近くたった頃ではなかろうか、今度はその御殿が住む人もなく荒れ果てているというニュースが流れるようになった。70年代に入ってのオイルショックなどで企業は開発地域にさっぱり立地せず、建てられたのは石油備蓄基地だけだったからである。期待していた就職口は当然なく、畑もなくなっているので、地域で収入を得ることはできない。東京などに出稼ぎに行くしかない。子どもたちも職を求めて大都市に出て行く。かくして住む人がいなくなる。そして買い占められた土地は荒廃する。またまた異様な風景となってしまった。
こうしたところに持ち上がったのが「核燃サイクル施設」の立地だった。工場等の敷地が売れず多額の借金をかかえた開発公社や県はこれに飛びついた。
そして今ここは核のゴミ捨て場にさせられようとしている。
1997年、しばらくぶりで六ヶ所村を訪れた。港や道路は整備され、さまざまな原子力関係の建物が建っていた。しかしそれは一部地域だけだった。そして開発にともなう傷痕がさまざまな形で残っていた。
村内の既存のある地区の水田の話になるが、この地区には50戸弱が共有する88haの水田があり、それぞれの持ち分が登記されていた。ところが、不動産業者の土地買い占めとその分割販売で権利者が何と県内外の1000戸にもなってしまった。これでは基盤整備ができない。権利者全員を訪ね歩いて合意を得ることはほぼ不可能だからである。こんなことはこの地区だけではないという。道路一本整備するのにも地権者探しに大変だという。
こんな話を聞いた帰りの車中、ふとこんなことを考えた。そもそも三八、上北そして下北は日本の資本主義にとって何だったのだろうかと。
戦前についていえば、ここの広大な林野は国有林となって国の財政源となり、またそれは海岸線と合わせて軍事基地となり、さらに軍馬育成基地となって、軍国主義日本を支える役割を果たさせられた。戦後は引き揚げ者等を受け入れるための開拓地として戦後処理の役割を果たさせられ、ナタネやビート等の畑作振興、それがだめになると米の増産のための開田の推進、ところが今度は減反、こうした政策の変転のままに振り回された上に、米軍基地がおかれて日米軍事同盟の拠点として使われてきた。そして高度経済成長が本格化すると農林業を潰して石油産業を立地させようとし、さらに今度は核のゴミ捨て場にさせられようとしている。まさに青森県の三八、上北そして下北地方は国家の政策に振り回されてきた犠牲者ではなかったろうか。
こうしたさまざまな問題はあったけれども、戦後の緊急入植、そして上北機械開墾等が広大な草地を造成し、本格的な酪農展開の基礎をつくったということは高く評価できるであろう。
この東北における草地造成は未利用林野だけでなくいわゆる牧野の改良によっても進展した。その典型が上北の南方に広がる北上山地だった。
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