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揺らぐ地域社会のセーフティーネット【小松泰信・地方の眼力】2023年1月18日

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高齢者や障害のある方、子育てや介護をしている方等、様々な相談に応じる、地域の身近な相談相手、民生委員。誰もが安心して生活できる地域づくりの仕組みの一つ民生委員制度は、1917(大正6)年に岡山県で創設された「済世顧問制度」がその起源とされています。(岡山県HPより)

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民生委員制度に暗雲

民生委員制度は、日々平穏にくらしていくことに多様な障害を抱える人びとの相談を受け、支援機関につないだりする地域社会のセーフネットである。厚生労働大臣が委嘱する非常勤の特別公務員で無報酬だが、活動費として1人年6万200円が国から自治体に交付される。具体的な支給額は自治体によって異なっている。なお、子育て家庭を支援する児童委員も兼ねている。

地味で、必ずしも広く国民に知られている制度ではないが、極めて重要な役割を担っている同制度が、今揺らいでいる。

1月13日厚生労働省は、全国の民生委員・児童委員について、昨年 12 月1日の一斉改選により、225,356人が新たに委嘱されたことを公表した。ただし、定数は240,547人であるため、欠員が15,191人。これは戦後最多の欠員数とのこと。

都道府県別(政令指定都市と中核市は除く)に見ると、充足率が最低は沖縄県で74.4%。最高は富山県で99.8%。

欠員が増えている要因としては、民生委員自体の高齢化や、60歳以上を過ぎても働く人が増えていること、さらには地域課題の複雑化に伴う業務負担の増加などが指摘されている。

時代にあった「ゆいまーる」の必要性

沖縄県の充足率が最低であることに危機感を覚える琉球新報(1月16日付)の社説は、「沖縄に根付く相互扶助『ゆいまーる』の精神だけでは追い付かない。民生委員に対する行政支援を含め、時代に合った『ゆいまーる』を社会制度として再構築すべきだ」と提言する。

「なり手確保のアイデアを若者に出してもらい、次代のなり手確保につなげる試み」として、大学生を対象に民生委員活動体験を実施した神戸市の取り組みや、地区で活動する約100人の委員全員にタブレット端末を貸与し、効率化を進める石川県野々市市などの取り組みを紹介する。

「民生委員の確保は、長い目で見れば地域社会を再構築する取り組みだ。人材確保へ自治体の積極支援を望む」としたうえで、「実情に応じて企業や社会福祉法人に担い手を広げるといった柔軟な対応が求められる」(上野谷加代子同志社大学名誉教授)の指摘を引き、個人の善意に頼る現状から視野を広げることを意識し、高齢者の見守り事業などを実施する企業などとのネットワーク化を示唆している。

速やかに対策を講じる

愛媛県は充足率99.6%で今のところ問題は顕在化していないが、愛媛新聞(1月16日付)の社説は、「今のうちから対策を講じておく必要があろう」と引き締める。

全国民生委員児童委員連合会が昨年3月に行った調査で、役割や活動内容まで知っている人が5.4%にとどまったことを取り上げ、鍵を握るのは「認知度の向上」として若者へのPRなどを提案する。加えて、会議へのオンライン参加、タブレット端末貸与により活動記録のデジタル化、複数の委員で同じ地域を受け持つ、OBによるサポート、などによる負担軽減策も示している。

そして、「加入率低下などで自治会そのものが揺らぎ、民生委員制度に影を落とす側面もある。孤立や孤独など地域課題が複雑化するなか、支援の網からこぼれる人を出さないことが重要だ」として、国や自治体に対して制度の維持に全力をあげることを求めている。

民生委員協力員制度

福島民友新聞(1月17日付)の社説によれば、「南相馬市や川俣町などでは『民生委員協力員』を設置し、民生委員の活動を補佐する取り組みが行われている。協力員は身近な場所で見守り活動をしたり、地域で変わったことがあれば民生委員に情報を提供したりする。協力員は、自治体や地域の社会福祉協議会などが委嘱しており、なり手も民生委員OBや町内会役員などさまざまだ。こういった支援体制があれば民生委員の心身の負担軽減につながる」と、県内における興味深い取り組みを紹介し、他の自治体への広がりに期待を寄せている。

さらに、「地域のつながりが希薄化する中、助け合いの仕組みを未来にわたってつなげていくためには、教育現場などで若者たちに制度の意義や必要性を伝えていくことも大切だ」と提言する。

子ども民生委員の誕生

福島民友新聞の提言を実践しているのが鹿児島県日置(ひおき)市。

南日本新聞(1月13日付)は、「子ども民生委員」の誕生と、10日の発足式および委嘱状交付式の模様などを伝えている。

きっかけは、昨年7月の市の子ども議会で、地域の民生委員や子どもたちと2019年7月から週1回、高齢者のごみ出しを手伝っている伊集院小学校6年の中原璃久君が、「高齢者は子どもたちに得意な趣味などを教えれば、やりがいを感じる。会話したり体を動かしたりすることが、体の機能が衰える『フレイル』の予防に役立つのでは。僕たちも将来の勉強になる」と熱弁を振るったこと。これに感心した永山由高市長が、担当課職員とごみ出し支援の現場を視察するなどして発足準備を進め、同自治会で「子どもお助け隊」として活動する小学2年から中学2年の14人に委嘱した。

「ごみ出しや途中のごみ拾いなど、自分たちができることを続けていきたい」とは代表の中原君。

「地域ぐるみの支え合いの輪が、さらに広がることを期待する」とは永山市長。

必要な丈夫で多様なセーフティーネット

済世とは、世の人を救い助けること。今、さまざまな困難にあえぐ人びとを救い助ける多様なセーフティーネットが求められている。一世紀以上の歴史を有する民生委員制度の存在意義の大きさに改めて気付かされた。ほころんでいるセーフティーネットは繕い、丈夫で多様なネットが幾重にも重なり合うことが不可欠。誰一人、網の目からこぼれ落とさぬために。

「地方の眼力」なめんなよ

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