酪農の機械化・施設化と「混同農業」の崩壊と【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第223回2023年1月19日
牛の乳搾り、私がこれを初めて体験したのは大学の農場実習だった。子どものころやっていた山羊の乳搾りで慣れていたせいか手がひとりでに動いて苦労はしなかったが、牛の身体が大きくて最初はちょっとこわかった。

この搾乳を機械=ミルカーがやる、人間は楽になるかもしれないが牛にいいのか、牛と人間の直接的な触れ合い=コミュニケーションがなくなっていいのか、古いタイプの人間だからかもしれないがそんな疑問を私が感じているうちに、あっという間に手搾りはミルカーに変わった。やがてそれはパイプラインにつながれ、牛乳はそれを通ってバルククーラー(貯蔵タンク兼冷却機)に入れられるようになった。そしてそれを乳業会社のタンクローリーが来て集めていく。
搾乳というもっとも労力と時間を要する作業の省力化が進み、搾った生乳を入れた重い牛乳缶を背負って家から集乳トラックの来る道路まで雨の日も雪の日も運んだこれまでの苦労もなくなった。
こうした機械化・施設化は、乳牛の飼育や飼料生産でも進んだ。そして毎年のように新しい技術が導入された。畜舎や飼育方式についてはスタンチオン、ウォーターカップ、ルーズバーン、フィードロット、フリーストール等々、サイレージについては塔型サイロ、バンカーサイロ、ラップサイレージ、飼料生産については刈り取り・集草のトラクタリゼーションが進み、モーア、レーキ、テッダー、ベイラー、フォーレージハーベスター等々が導入され、酪農家に調査に行くたびに知らないカタカナ語が出てきて、ついていくのが大変だった。まさにすさまじいばかりの急激な技術革新だった。
1970年代から80年代にかけてのこうした機械化・施設化の進展で一頭当たりの労働時間は本当に短くなった。したがって多頭化が可能となった。実際に多頭化が進んだ。というよりもせざるを得なかった。高度経済成長下での諸物価上昇、それに対応しない乳価のもとでは、多頭化して収入を増やし、生活費をまかなうより他なかったからである。また、機械化・施設化を進めると、それで浮いた労働力の燃焼と新しい機械・施設の過剰投資を避けるために、また多頭化を進めなければならなくなる。そうすれば今度は草地等の飼料畑も拡大しなければならない。するとまた金がかかり、その借金を返すためにまた多頭化を進めなければならない。こうして悪循環的螺旋状的に規模拡大の道をたどることになった。
そうなると、酪農以外の畑作などに労力や土地を向ける余裕はなくなってくる。一頭当たり労働時間は大幅に減ったが、総労働時間が減ったわけではなく、それどころかかえって増えたために他の作物に労力を向けるわけにいかなくなり、畑も飼料作にすべて向けなければならないからである。かくして酪農専業になってくる。かつて目指した「混同農業」は崩壊するのである。
こうした規模拡大による酪農専業化を支え、また推進したのが近代化資金を始めとする低利融資だったが、いくら融資があってもこうした拡大に資金的な面からついていけない農家が出てくる。それで酪農をやめるか、多額の借金をかかえて離農せざるを得なくなる。こうして酪農戸数は激減することになった。
この戸数激減や「混同農業」の崩壊等、さまざま問題はあったが、ともかく乳牛頭数は70年代に大きく増えた。そしてそれは山間地帯や北海道の酪農地帯としての発展を展望させるものであった。さらにそれは草との結びつきの少ないかつての都市近郊の搾乳業、粕酪(=食品産業等の残渣を飼料として利用する牛乳生産方式)というような日本的なと言っていいのか特殊なと言っていいのか、ともかくそういう酪農から飼料作と結びついた本格的酪農への発展として評価されるものでもあった。
でも、濃厚飼料は輸入物を使った方が有利、それどころか稲わらなども同様、こうした輸入への依存、ここにも日本の酪農の大きな弱点があった(それからもう一つ、酪農の電力依存、これは10年前の東日本大震災のさいに近年の酪農の弱点として浮かび上がった。これはまた後で述べたいと思っている)。
こうした乳牛ばかりでなく肉牛の飼育、養豚、養鶏も70年代以降大きく発展したのだが、いずれも濃厚飼料の輸入依存をはじめとするさまざまな問題を抱えていた、
そのことはちょっとおいて、次回以降は、前に述べた70年代までの農村女性の抱えていた問題がその後いかように変わっていったかについて見てみることにしたい。
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