【浅野純次・読書の楽しみ】第82回2023年1月21日
◎堤未果 『ルポ 食が壊れる』(文春新書、990円)
本書を書店で求めたのは目次をパラっと見てのことです。特に気候変動と牛、そして培養肉と人工肉の文字が並んでいたのに興味を引かれました。
牛飼育の環境負荷が言われていますが、本書は牛肉の代替品としての培養肉を俎上に乗せ、その問題点を詳しく説明しています。
著者が最も心配しているのは、無菌室からウイルスだらけの外界に送り出された培養肉にどんな運命が待ち受けているか、あるいは大量の添加物を含む大豆由来の人工肉が人体と農業にどういう影響を及ぼすか、ということです。牛の環境負荷を危惧するより、高密度で移動させるバッファロー式の放牧により問題は解決するという主張は面白いけれど、どこまで広がるか。
そのほか、ゲノム編集などフードテックへの危惧、GAFAなどの大金持ちによる農地買い占め、植民地的支配をたくらむデジタル農業計画、日本で進むユニークな農業革命、土を蘇らせる農業の王道、水田のすばらしさ、など興味深い多彩な報告が楽しめます。
個人的には著者の主張すべて納得できたわけではないにせよ、食と農をめぐる問題点の指摘としては全般的に見逃せない論点が並んでいると感じました。議論されるべき内容にあふれた労作です。
◎大島隆 『「断絶」のアメリカ、その境界線に住む』(朝日新聞出版、1870円)
著者はワシントン特派員です。コロナ禍で取材執筆のあり方が一変し、ワシントンから北へ車で1時間のペンシルベニア州ヨーク市のタウンハウスに移り住みます。こうして多様な住民との交流を通じての現地報告をまとめたのが本書です。
ヨークは中心部が黒人やヒスパニックの住むシティと呼ばれる貧民区で、これをドーナッツ状に取り巻くのが白人主体の高級住宅街です。両者には極端な貧富の格差があり、コミュニティとしても断絶しています。人種、生活水準、政治的立場などの異なる人々との交流や取材を通じて、彼らの心境や見解を探っていきます。
感心するのは、誰もがしっかりとした政治信条をもち、共和・民主支持の根拠を明確にすること。そのほか陰謀論(Qアノン)信奉、コロナワクチンへの賛否、そして絶望的な貧困の実態など、人々の姿が生々しく描かれます。ここには首都での取材では描くことの難しい「分離」と「分断」があります。米国社会の縮図を描いた優れたリポートです。
◎小倉ヒラク 『日本発酵紀行』(角川文庫、748円)
巻末の斎藤工さんとの対談の中で、著者は「醸造家たちは、自分が作っているとは言わないんですね。作っているのは微生物であり、自分はそのお世話をしている、という考え方」と言っていますが、至言でしょう。
全都道府県の発酵食品生産者を訪ね歩いた紀行文は、菌の力もさることながら携わる人たちの個性が魅力的です。そして味噌、醤油、酢、酒からすし、菓子、珍味まで、発酵こそ日本の食の中核をなしていることを改めて思い知らされました。
例えば最初に登場する八丁味噌。わが家の定番なので興味津々で読みましたが、愛知県岡崎の八帖という地区に旧東海道を挟んで2軒の大きな醸造蔵が、という冒頭の描写から引き込まれました。
本書は醸造食品そのものもさることながら、その土地の風土や文化をめぐる旅の本でもあって、人と景色が語られていくところに特徴があります。「おいしい食品」の話と二度楽しめるかもしれません。
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