花が普通の農産物になった年【花づくりの現場から 宇田明】第2回2023年1月26日
長く日かげの存在であった花は、いまでは普通の農産物になっています。
2014年に念願の「花き振興法」が、「養豚振興法」とともに議員立法で成立したからです。
1970年の花き生産者大会で、花き振興法の制定を要望してから44年もかかりました。
酪農および肉用牛振興法が1954年、養蜂振興法が1955年、養鶏振興法が1960年、果樹振興法が1961年、野菜生産出荷安定法が1966年に制定されたのと比べると、花も養豚もずいぶん遅れての振興法の成立でした。
前年には茶業振興法ができていましたので、振興法の在庫一掃セールと悪口をいわれましたが、花産業にとっては待望の法律です。
生産者、小売業者、卸売業者などは、日々、自らの仕事で精いっぱいであり、振興法制定の意味も分からず、関心が高いとはいえませんでした。
一方、農水省、都道府県の担当者などは、花には法律的な裏付けがなく、肩身が狭いうえに予算的にも恵まれていなかったので、花き振興法制定を熱望していました。
戦争中には、花づくりは非国民、国賊とののしられ、花づくりを禁止された歴史と先人の苦労を考えると、国が花を振興する法律を制定したことに、花産業は感慨深いものがあります。
では、なぜ2014年になって花き振興法が制定されたのでしょうか。
振興法制定の要望に対して、それまでの農水省の回答は、「花は儲かっているのだから、国の支援なんて必要ないでしょう」でした。
とすると、花き振興法が制定されたのは、花は儲からなくなり、このままでは国内の花生産は消滅する恐れがある絶滅危惧種と農水省が認めたことになります。国の支援なしには立ちゆかない稲麦のような普通の農産物に、花はなったということでしょう。
花き振興法ができて、どうなったのか。
普通の農産物にはあたり前のことが、法律に明記されました。
「農林水産大臣は、花き産業および花き文化の振興に関する基本方針を策定(3条)」
「都道府県は、花き産業および花き文化に関する計画を策定(4条)」
基本方針、計画は、主産県では振興法制定前にも策定していましたが、農水省には「策定すること」、都道府県には「策定するように努めること」と、法律に明記された意義はきわめて大きいものがあります。
これで、農水省や都道府県の花担当者は、それまでの日かげの身から、まっとうにお天道さまの下を、胸を張って歩けるようになりました。
次に、予算が一挙に10倍に増えました。
振興法以前の花関連予算(花き支援対策)は、5,000万円ほど。それが振興法制定後には5億円(2022年度は7億円)に増えました。稲麦と比べるとゼロがいくつも足りないでしょうが、花にとって夢のような金額。
では予算は何に使われているか。
まず生産者団体、市場・仲卸・小売団体、行政などで構成される47都道府県の花き推進協議会に配分。事業のメニューにしたがい、需要のある品目への転換、商品開発や販路開拓、花育(食育の花版)などによる花の利用拡大に向けた普及啓発活動などに活用されています。
全国事業では、日持ち・鮮度保持、コールドチェーンなど技術実証、新たな需要開拓・拡大などメニューごとに公募されています。
花は自己責任で生きてきた産業。なんでも手弁当があたり前でした。
そのため、国の支援を受けるのには慣れていません。受け皿となる団体や組織も限られているし、国の事業に応募するのにも慣れていません。国の予算を有効活用する普通の農産物になるにはまだまだ経験不足、時間がかかりそうです。
ただし、国の支援を受けることに慣れすぎて、これまでの自立心や活力を失ってはなりません。
宇田明 神戸市出身。千葉大学園芸学部園芸学科卒業後、1970年から兵庫県立農業試験場淡路分場(当時)で花き担当研究員を務める。1996年、「STSによる切り花の日持ち延長技術に関する研究」で農学博士取得(大阪府立大学)。2008年に兵庫県を退職後、宇田花づくり研究所を設立。園芸学会賞、農業技術功労者賞、松下幸之助花の万博記念賞などの受賞歴がある。著書に「カーネーションをつくりこなす」、「花屋さんが知っておきたい花の小事典」など。
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