シアトル・1907年開設の直売所と日本人、新人研修本は『フィッシュ!』【JAまるごと相談室・伊藤喜代次】2023年1月31日
シアトルに「21世紀型ビジネス」を学ぶ
A・ライフ・デザイン研究所
代表 伊藤喜代次
バブル経済が崩壊した1990年代半ば、国際的なコンサルティンググループの学習会に参加、内外の成長企業の実学的な経営論に接する機会をもった。そこで、ビジネスのスタイルについて、一つのヒントを得た。JAのような協同組織の事業は、ヨーロッパ型のビジネススタイルで、ヒューマン・リレーション(人間関係性)をベースにしたビジネスを基本に、その深掘りを仕組み化することに徹すれば、健全経営につながる、と。
事業活動エリアが限定されていることを強みとし、組合員や地域の生活者との関係性の強さを活かし、取引の継続性と長期化(生涯取引)を追求することが、JAのビジネス上の基本施策と考えた。これは、JAの施設の改廃、再編、新設などのコンサルを通じ、多くの事例やデータから、組合員や利用者との「関係性がJAの生命線」との確信をもったからで、それは現在も変わっていない。
数年後、学習会の延長で、親しい仲間とアメリカのシリコンバレーへ視察研修へ。1回目は、アップルやインテルなどのIT企業を訪問し、短いセッションを行う。短時間でも、見聞きすることが新鮮で、楽しかった。だが、さすがに2回目はつまらない。IT企業の経営に興味がわかない。そこで、現地の日本人コーディナーターに相談すると、シアトルの企業を紹介される。その場で予定変更、ひとりでシアトルに向かう。
この思いつきの予定変更が、25年に及ぶシアトルのいくつかの会社との関係が生まれることになるから不思議だ。とくに、スターバックスのビジネスモデルや経営の方針や人づくりに接し、スタバに関する図書や資料を読みあさり、現地を訪ね、学習機会を持つことができた。私の事務所が企画したビジネスツアーでお連れした信用金庫やJAの常勤役員のシアトル視察旅行で、スタバの本社内ツアーなどにも協力もいただいた。
シアトルにはマイクロソフトがあるが、他にも、世界一サービスが良いノードストローム百貨店、急成長を続けるアマゾン、会員制倉庫型卸小売業のコストコ、都市近郊農業とCSA(Community Supported Agriculture)、Farm To Table運動など、「21世紀型ビジネス」の代表的な会社群と農家と消費者のダイレクトな関係構築への取組みが大きな興味となり、毎春のシアトルがスケジュール化していく。
全米最古のファーマーズ・マーケットの主役は日本の移民農民
シアトルの観光名所の人気の1位は、スペース・ニードルという1962年の万博の際に建設された展望タワーだが、2位はパイク・プレイス・マーケット。シアトル観光では外せない海を見下ろす公設市場。この非営利組織が経営する市場は、1907年に開場したアメリカで最古といわれるファーマーズ・マーケット。その長く深い歴史を知り、驚愕し、感動する。何と、このマーケットは1880年以降にシアトル近郊に渡った日本人の移民開拓者が出荷者の大半を占め、想像を絶する苦しみを経験し、その歴史を紡いできた市場なのだ。
1900年当時、野菜価格が暴騰、暴利をむさぼる仲卸人の台頭などへの対抗策として、マーケットの開設を議会に働きかけ、仲卸人の反対や出荷妨害などの暴力的な抵抗にもめげず、市場をつくり、守り、拡大させた日本人移民農家。彼らの正義感や闘魂、共同・仲間意識の強さは、想像を絶する。マーケットのオープンの日、仲卸人の暴力を警戒して出荷したのはわずか8人の日本人農家だったようだ。
パイク・プレイス・マーケットの正面入口の天井に、日本移民の歴史を描いたミューラルアート(壁画)がある。日本移民が中心になって開設した1世紀を超えるアメリカ最古のマーケット、ぜひ、シアトル旅行で確認してほしい(若手のJA職員研修では、いつもこの話をする)。実は、後の不幸な太平洋戦争で、カリフォルニア州やここワシントン州の日系人は強制収容され、全財産を失う人も。辛く悲しい、暗い歴史も背負っている。
新人職員研修では、「フィッシュ!」を必読書にレポートを!
パイク・プレイス・マーケットが、シアトル第二の観光施設の理由。その一つは、道を挟んで世界から観光客が殺到する小さな店、「スターバックス・1号店」がある。朝から夜まで客が列をなす。もう一つは、マーケット内にある世界的に有名な魚屋さんだ。"ゴミ溜のようなやる気のない職場を改革する物語"の小さな本が全世界のビジネス研修で使用される。その本の主役が、ここの魚屋さん。
日本語版『フィッシュ!』、サブタイトルが「鮮度100%ぴちぴちオフィスのつくり方」(早川書房・刊)。この本を読んだ世界のビジネスマンが「現場」で、魚が飛び交い、客を楽しませ、店員が楽しむ情景を一目見てみたいとやってくる。
余談だが、私の研修でも、全国のJAをはじめ、百貨店や飲食店チェーン、銀行などの研修で、この『フィッシュ!』は読書レポート提出の必読書。当社が購入した冊数だけでもざっと5,500。また、何回かのシアトルへのビジネス視察ツアーで、ここを訪ねた際、私は魚屋の内側に入り、店員と魚投げを体験する機会をもつ、良い想い出だ。
この図書は、3時間ほどで読めること、読書レポートが書きやすいこと、キーワードの解釈が多様で、受講する職員のディスカッションが盛り上がる、"考える新人研修"には最適。今の時代、むしろ、この本の価値は上がっている。組合員・利用者との関係性がJAの生命線だからだ。
本書のポイントをちょっと紹介する。物語りになっているが、仕事をするうえで、重要な「4つのコツ」をあげているのがポイント。
1.態度を選ぶ Choose your attitude
2.遊ぶ Play
3.人を喜ばせる Make their day
4.注意を向ける Be present
いずれも「なぁんだ」と思うシンプルなことだ。しかし、たとえば、「1.態度を選ぶ」について、「仕事そのものは選べなくても、どんなふうに仕事をするかは自分で選べる」という解説。受け止め方は、多様で、広く、そして深い。
新人研修に限定せず、職場の必読書として、ぜひ薦めたい図書である。
( もし、『フィッシュ!』で研修予定なら、講師用の資料を提供します。メールをお願いします)
◇
本コラムに関連して、ご質問、ご確認などがございましたら、お問い合わせフォーム(https://www.jacom.or.jp/contact/)よりご連絡ください。コラム内又はメールでお答えします。
重要な記事
最新の記事
-
【注意報】冬春ピーマン「斑点病」、冬春トマト「すすかび病」県内で多発 宮崎県2025年1月27日
-
鳥インフル 米バージニア州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年1月27日
-
「農林水産業と食文化の発展は世界をもっと豊かにつなぐ」大阪・関西万博に出展 農水省2025年1月27日
-
「サステナアワード2024」各賞が決定 農水省2025年1月27日
-
選手と接する時間を増やす 常に目を配り対話を行う 柔道男子の鈴木桂治監督が語る人材育成【全中教育部・オンラインJAアカデミー】2025年1月27日
-
JA全農協賛「全日本卓球選手権大会」男女シングルス日本一が決定2025年1月27日
-
【今川直人・農協の核心】協同から協働へ2025年1月27日
-
三重県オリジナルイチゴ「うた乃」フェア みのるダイニング名古屋店で開催 JA全農2025年1月27日
-
JA全農協賛「全日本卓球選手権大会」ジュニアのシングルス日本一が決定2025年1月27日
-
「だいすきシリーズ」から使いやすい容量、保管しやすいサイズのmini(ミニサイズ)新発売 マルトモ2025年1月27日
-
農薬散布など最新ドローンとソフト紹介 無料実演セミナー 九州3会場で開催 セキド2025年1月27日
-
農文協『みんなの有機農業技術大事典』発刊記念 セミナー「耕さない農業」開催2025年1月27日
-
横浜のいちごイベント&スイーツ紹介「いちご特集」公開 横浜市観光協会2025年1月27日
-
移動スーパーとくし丸 マイヤと提携 岩手県花巻市東部エリアで移動販売再開2025年1月27日
-
【人事異動】クボタ(2月1日付)2025年1月27日
-
豆乳の栄養素と鉄分が一緒にとれる「キッコーマン 豆乳+鉄分」新発売2025年1月27日
-
全国から382品が集合「第3回全国いちご選手権」開催 日本野菜ソムリエ協会2025年1月27日
-
神戸・元町の名店の味を再現「町中華 中華カレー」新発売 エスビー食品2025年1月27日
-
モスバーガー&カフェ限定 栃木県産「とちあいか」いちごソースに使用 春の定番ドリンク発売2025年1月27日
-
カーボンニュートラルに貢献する廃熱ソリューション「ENEX2025」に出展 ヤンマー2025年1月27日