(320)認識の違い:喉元を過ぎたエタノール【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2023年2月17日
日本と米国ではエタノールに対する認識、そして戦略が大きく異なる点、意外と重要です。
現在の米国では生産されたトウモロコシの約4割が国内の畜産飼料用、さらに約4割がエタノール生産用、そして残りが輸出と在庫に回る。トウモロコシの需給と日本向け輸出の話は幾度か記しているので、今回はこのトウモロコシ、とくにエタノールに関する日米の認識と戦略の違いについて、簡単に述べてみたい。
まず、言うまでもなくトウモロコシは米国の最重要作物の1つである。最大需要は米国内畜産飼料用需要、つまり食肉生産である。食肉需要は世界的には将来の人口増に伴いほぼ確実に需要の伸びが期待できるが、環境問題や動物愛護など対応はますます高度化・複雑化することが想定されている。
それでもトウモロコシの大量生産が続いた場合、過剰供給による価格下落を防ぐには需要のもう一つの柱であるエタノール需要を国内外ともに開拓することが必要になる。ここで生産量の抑制ではなく、市場開拓を指向するところが米国の特徴である。
次に、現在の日本における米国産トウモロコシの主要用途だが、これは約7割が畜産飼料原料、残りが異性化糖などを生産する工業用原材料である。最近は、輸入原料依存への対応として、飼料分野では子実トウモロコシの生産などの取り組みも開始されているが、まだまだ絶対量としては圧倒的に輸入中心である。
一方、エタノールはと言えば、20年ほど前に日本中で「ブーム」があった。何人もの研究者がバイオ・エタノール生産に関心を持ち、数は限られていたものの国産農産物などを原料としたエタノールの生産工場までできた。だが、その後はどうも余り話を聞かない。
恐らく多くの日本人の認識は依然として「米国ではトウモロコシからエタノールを作り、需要が増えている」「その結果、飼料用の輸出に影響がでたら困る」あるいは「国産はコストが高く難しい」という状況ではないだろうか。
米国のエタノールはトウモロコシから作られる戦略商品と考えた方が良い。我々に馴染みの深い農産物や農林水産物という言葉からは想起し難いが、それが現実だ。だからこそ、米国は、世界各国でエタノールの需要を喚起し、あるいは新たな市場を創り出すことを農業だけでなく貿易と環境政策の重要な柱の一つ、つまり国家の全体戦略としている。
ところで、現在日本のエタノール輸入にはまだ若干の関税がかけられているが、2028年度からはそれも撤廃される見込みである。それだけでなく今後は畜産物や乳製品、園芸関連品、その他など数多くの品目が個別に対象となる。そういえば...、と思うかもしれない。
過去3年間は新型コロナウイルス感染症に振り回されてきた。そろそろ、何年か前に日本中で議論したことを思い出す時期だ。そう、米国が途中で抜けたTPP関連である。日米間は日米貿易協定に代わり、2020年1月から発効している。時間が経つのは早い。とりまとめの1~2年、コロナの3年で気が付けばかなり先と思えた10年先はもう道半ばである。
なお、エタノールに関する限り、我々は既にほぼ輸入依存状態である。供給先はブラジルが約半分、残りを米国、南アなどだ。自給率向上を議論するならこちらも同じであろうが、こちらはどうなのだろうか。
より高い観点から見れば、国家レベルで温室効果ガスの排出を減らし、再生可能エネルギーの利用を高めるという大方針がある。あとは諸方策の組み合わせの中で国産エタノールの可能性をどう考えるかである。
* *
嘉永6(1853)年、ペリー来航でひと騒動の後、嘉永7(1854)年の日米和親条約、そして安政5(1858)年の日米修好通商条約で通商開始へと至った歴史を見ると、日本におけるエタノールの立ち位置が何となく見えてくるのではないでしょうか。
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