(321)日本人が忘れつつある「市場開拓」のやり方【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2023年2月24日
いろいろ反論があるかとは思いますが、あえて記してみました。最近、どうにも「むず痒い」状態が継続しているからです。
新製品の開発や既存製品の改善は魅力的だし重要だ。消費者は常に何らかの満たされないニーズを抱えており、それを満足させてくれる製品に出合えば、それなりに心をつかむことが可能になり、売上、そして利益につながるからだ。
一方、生活水準がある程度上昇してくると、人々の求めるモノやサービスはわざわざ時間や手間をかけなくても簡単に入手できるようになる。実際、手元に携帯があれば、世界中のリアルタイム情報に好きな場所と時間でアクセスできる。こうした状況はもちろん、それなりに望ましいが、それが長く続くと弊害のようなモノが出てくる。内容はいくつも考えられるが、ここでは「市場開拓」に焦点を絞ってみたい。
先日、米国農務省が興味深いレポートを出した。将来のアフリカの可能性に関するものだ。「また、アフリカかよ」と言われそうだが、その中に食品関係で興味深いデータが示されている(注1)。
例えば、2016-20年の5年間において、食品・飲料関係でアフリカに最も投資をした国はどこか...というものだ。ここまで読むと、「また中国か」と思うかもしれない。だが事実は全く異なる。米国農務省の数字が正しいとすれば、この分野のグリーンフィールド投資(M&Aなどではなく、新たにゼロから法人や工場を設立する形の投資)の第1位はUAE(アラブ首長国連邦)である。第2位はウクライナ、そして米国は第3位である。この後は、ベルギー、サウジ・アラビア、オランダ、レバノン、シンガポール、イギリス、フランス...ときてようやく中国である。残念ながら日本はこれらの水準には達していない。
アフリカ問題の根本は、人口の増加率が食料の供給スピードを上回っていることだ。つまり今後、アフリカでは確実に食料の増産か輸入というニーズが今以上に拡大する。それを見越して、先の各国は、食品・飲料分野で様々な投資をし、将来の莫大な「市場」に備えている訳だ。
振り返ってみれば高度経済成長期には世界中に日本の商社やメーカーの人間が出ていき、同じようなことを実施していた。その地道な積み重ねが後の日本経済の繁栄につながっている。先に上げた各国をよく見れば、必ずしも先進国ばかりではないし、人口増加が著しい国ばかりでもない。世界の流れを見て迅速に動いているだけだ。
ウクライナが第2位というのも正直、筆者は認識していなかった。米国はさすがにしぶとい。将来、発展の可能性のある地域・市場には首位でなくても必ず一枚かんでいる。
おそらく、今後5~10年後には、アフリカ各国の中で、先進国並みにインフラが整い、ビジネス環境が整備されたところがいくつも出てくるであろう。その時に日本企業が仕掛けても既に遅いことは明らかである。
そして、何かを言えば、「多くの若者が海外には出たがらない」、「海外駐在を嫌がる...」などの言葉が返ってくる。だが、いくつものメディアで既に報道されているように、最近では1~2か月の休みを利用し、アジア諸国に「出稼ぎ」に行く若者も出てきている。理由は極めて簡単、その方が「稼げる」からだ。この件については別途、機会を見てまた書いてみたい。
さて、ある製品を販売する際、まがい物と区別するために規格を厳密に作り、取扱業者を定め、商標登録を行うなど、ビジネスには重要なポイントがいくつも存在する。しかし、これが行き過ぎると、その中の一部だけを緻密に追及し過ぎる余り、より大きな大多数のニーズと逆行することを人も組織も、場合によっては地域や国家も行うときがある。
伝統的な土産物店が本家と元祖の争いを継続し縮小する市場で熾烈な争いをしているうちに、全く異なる名産品が当該地域の土産物として新しい市場を創り出し、名も実も首位を軽々と奪っていくようなものかもしれない。
* *
セミナーや研修はもちろん大事ですが、やはり現場で何が起こっているかをリアルに観察してこそ、乗り遅れずに新しい市場に入り込めるのではないでしょうか。
(注1)Johnson et al, "Market Opportunities Expanding for Agricultural Trade and Investment in Africa", USDA-ERS, February 2023. アドレスは、https://www.ers.usda.gov/amber-waves/2023/february/market-opportunities-expanding-for-agricultural-trade-and-investment-in-africa/ (2023年2月22日確認)
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