続・輝いて やがて消えゆく 農村女性【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第230回2023年3月9日
農家の経営継承に関する意識の弱まりを痛感したのは、1990年から91年にかけての経営継承に関する意識調査だった。宮城県N町、秋田県Y市のある集落で農家全世帯員に「農地は家を継ぐものに渡すべきか」と聞いたら、年齢が高くなるにつれて「そう考える」と答えるが、20~30歳代は「そうは考えない」が多くなる。農地をそっくり家を継ぐものに渡さなければ農業が継続できなくなるのだが、それでもかまわないという意識になっているのである。
男女間で比較すると、女性の方がそういう意識が強い。他の質問に対する答えもそれを示していた。それは当たり前かもしれない。よその家から嫁に来たものだから夫の家と農業の維持に対する思い入れ、愛着は少ないのだろう。あるいは嫁に来て散々いじめられたので、こんな家なんかどうなってもいいと考えているからかもしれない。もしかすると女性の方が子どもは平等の相続権をもっているという「民主的」な考え方をもっているのかもしれない。このように若い女性が農家の継承を考えなくなっているのだから、当然のことながら女性は農業をやろうとはしない。かくして女性の後継者不足となるのである。
それでもがんばっている女性たちがいる。こうした女性たち、きわめて優秀だと言われている女性の直売グループや農産加工グループなどを訪ねる。みんな元気である。しかしそのほとんどが50歳以上、30歳代以下となるとまったくといっていいほどいない。みんなもそう言う、もう地域にはそうした若い女性はいないと。いてもよそに勤めており、小遣い稼ぎにしかならない直売や加工に加わろうとはしないともいう。このままいったら、後十年か二十年したら、どうなるのか、後継者不足で潰れてしまうのではないか。そう彼女らに聞きたいのだが、明るくがんばっている彼女らを見るとそこまで聞けなくなってしまう。しかし実際に高齢化で自動消滅したグループも現れるようになってきていた。
女性は輝き始めたとさきほど言った。二十世紀末になってようやく女性解放の悲願がかなってきたのである。
しかし農村については輝くべき女性がいなくなりつつある。輝きはむらから消えつつある。
もちろん、女性が農業で少なくとも他産業並みの所得を得られるものであれば、生き甲斐をもって女性もやれるものであれば、農村に残り、農業をやろうとするかもしれない。しかし食糧管理制度がなくなるなどその展望はなくなっている。カアチャン農業などというのは時間の問題で、いつかはなくなってしまうだろう。
それがわかっていながら女性を農業の担い手として重視し、地域振興を図っていくなどというのは、深刻な担い手問題、その根源としての政治経済問題に対する目をそむけさせるものでしかないのではなかろうか。こんなことを90年代になって考えさせられたものだった。
若い男性は農業を継承しない、女性もやがて農業の担い手たり得なくなる、このことはこれまで日本の農業を支えてきた「血と地の結合」による農業継承の崩壊を示すものだった。
こんなことはかつては考えられなかった。農家の長男は家を経営を継ぐ、男子がいない場合は長女が家を継ぐ、そして嫁をもらいあるいは婿をもらい、経営を継承する、これが当たり前のことだったのに、そうではなくなってきた。それにかわって次三男、次三女が継ぐこともなかった。
親も子どもたちを引き留められなかった。いや引き留めなかった。
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