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未来志向のビジネス、組織、人材育成を考えよう!【JAまるごと相談室・伊藤喜代次】2023年3月14日

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「日本は世界一」といわれたけど、長いトンネルに入ったまま

A・ライフ・デザイン研究所 代表 伊藤喜代次

1960年代からの日本経済の高度成長、70年代には2次にわたるオイルショック、物価高騰を経験したが、80年代は高い成長が続く。そんななか、1979年に出版された『ジャパン アズ ナンバーワン』という翻訳本がベストセラーになった。

戦後の日本経済の成長要因の分析とともに、日本的経営を評価し、なおかつ日本人の教育・学習への高い意識と読書習慣、新聞の購読率の高さなど、社会的な背景も分析してみせた。この本の出版から10年後、日本はバブル経済が崩壊、金融・経済システムが破綻、混乱期を迎える。そして、「失われた30年」が始まる。

この本の執筆者である社会学者のエズラ・ヴォーゲルは、この本のサブタイトルにLessons for America=アメリカへの教え、と書いた。この本に影響されたわけではないだろうが、数年後に、アメリカ政府内に新たなプロジェクトが生まれ、1992年に「SCANSレポート」という国家戦略への方針が提起される。

80年代のアメリカの国際競争力の低下で、産業界から教育に対する強い懸念が示され、当時のブッシュ大統領がイニシアティブをとって、教育を国家戦略に位置づけることとなった画期的なレポートだ。職場で求められる能力の明確化、産学連携により学校教育の段階から養成していくこと提示した。

米国企業の職場での「ソフトスキル」の重要性が認識され、IT化やITビジネスの創造、変革が予測され、アメリカは相当な危機感を持っていた。産業や業務の変化、専門化や複雑化を背景に、新たな付加価値が求められる時代を生き抜くビジネスの創造への対応が求められた。また、そんななかでも、職場や仕事のチームワークの重要性も強調されたのである。

そこで、指摘された3つのスキルは、①Information and communication skills:情報・メディアリテラシー、コミュニケーション力、②Thinking and Problem-solving skills:分析力、問題発見・解決力、創造力、③Interpersonal and self-directional skills:協働力、自己規律力、責任感・協調性、社会的責任であった。

リスキリングで人材の再教育や再開発が必要と言うが・・・

その後のGAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)の5社を筆頭にアメリカのIT企業の成長と発展をみれば、国家戦略に位置づけた成果は確かだ。数年前、一時的だが、GAFAMの5社の時価総額が計560兆円となり、日本の東証1部2,170社の合計金額を上回ったというニュースにはショックだったが。

アメリカの「SCANSレポート」から14年後、経済産業省が研究会で提案したのが「社会人基礎力」の強化であった。ビジネス・教育環境の変化、職場等で求められる能力の明確化を背景に、日本もIT化に対応し、新たなビジネスにマッチした人材の育成が求められるとしたが、高等教育や企業組織を巻き込んだ国家的な戦略には至らなかった。企業経営者で「社会人基礎力」を知らない人もいたほどだ。

「失われた30年」のなかで、非正規雇用が拡大し、低賃金層が増大した。個人の実績主義がはびこり、転職・引き抜き市場が拡大している。日本的経営が再評価されることもなく、進行したのは日本人の教育・学習への意識の低下、読書習慣をもつビジネスマンは少なくなり、新聞の発行部数はこの20年で約半数に減少した。世界から注目された日本の産業発展を支える社会的文化的な環境は昔の話になりつつある。

また、1950年代、60年代を考えてみればいい。厳しい家族環境のなかで育てられた真面目で勤勉で、学習意欲の高い農家の次三男女が、都会をめざし、就職して懸命に学習し、工夫・努力し、周囲と協力して企業の発展に貢献した戦後の優秀な"経済兵士"は、もはや望むべくもない。

ここにきて、産業のDX(デジタル・トランスフォーメーション)化により、業務のプロセスの変革、新たな産業やビジネスの創造が進行している。変化や変革についていけず、仕事や課題に対処できない状況が生じている。

そこで、DX化に伴う新しい人材育成の手法として、昨年から、国は「リスキリング」を推進する。デジタル技術の進展に伴う新たなビジネスや仕事に対応するスキルを身につける人材の再教育や再開発が必要というが、小手先感は否めないし、政府も経済界も、そして教育界も本気で危機感を感じて、リスキリングを捉えているとも思えない。

重要なのは、どんな産業が生まれ、ビジネスが創造され、将来に必要とされる人材やスキルは何か、が見えないことだ。DX化も、まだまだビジネスの総合的な効率化の手段との理解が一般的で、本気度はイマイチである。

これは、JAにも共通することだが、JA事業活動のデジタル化、DX化は、着実に、そして急いで進めていく必要があるとしても、戦後、協同組織として80年近く、基幹ビジネスを中心に行ってきたが、ここを考えなくていいのか。これからをどう考えるのか。10年後、20年後・・・、連合会も含めて研究を急ぎたい。組合員の農業や暮らしの現実や将来への期待、JAの事業や活動の実情や目標とする組織・経営の姿とは何か。

JAの将来に不安を感じている組合員、役職員は少なくない。未来志向のJA事業、人づくり、組織づくりは、誰が提案するのか。JAグループ全体の知恵を結集したいが、個々のJAの役職員が提案してほしい。組合員のことを良く知っているからだ。

本コラムに関連して、ご質問、ご確認などがございましたら、お問い合わせフォーム(https://www.jacom.or.jp/contact/)よりご連絡ください。コラム内又はメールでお答えします。

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