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農家は怒るべし【小松泰信・地方の眼力】2023年3月22日

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「権柄(けんぺい)づくや財力を背にしてものを言われると、『わしが貧乏しとるのは、あんた方と違うて、はらわたの腐っとらん証拠でござす』とやり返した」のは、水俣病を世に知らしめた『苦海浄土』の著者・石牟礼道子氏の実父・白石亀太郎氏。(梯久美子『この父ありて 娘たちの歳月』文藝春秋より)

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この人のはらわたは?

3月12日、千葉県八千代市での街頭演説で、「政治に関心がないことは決して悪いことではない。健康なときに、健康に興味がないのと同じだ」と、持論を述べた麻生太郎自民党副総裁のはらわたをのぞいてみたい。

東京新聞(3月17日付)は、日本医師会(日医)の政治団体「日本医師連盟(日医連)」とその関連政治団体「国民医療を考える会」が2021年秋、自民党麻生派(志公会)に、派閥向けでは異例の高額となる計5000万円を献金したことを報じている。

日医関係者によると、麻生氏は、政府のコロナ対策に厳しい発言が多かった当時の日本医師会長中川俊男氏に批判的だったため、日医連内では21年12月の診療報酬改定を前に、麻生氏との関係悪化に危機感が広がったとのこと。麻生派に献金があったのは決定の約3カ月前。麻生氏は献金直後の同年10月4日の岸田政権の発足で、副総理兼財務相を退任し党副総裁に就いた。

麻生氏は、この献金に関する同紙の取材に対して、「全く知らん。俺は派閥の金を受け取ったことも触ったことも全くないから」と話し、診療報酬改定との関連についても「財務大臣も辞めていたし、全く関係ない。それで金が動くなんていうことはあり得ない」と述べている。

ゲスの勘ぐりはやめておくが、お金に困ったことのない方だから、はらわたについては推して知るべし。

ちなみに、解説記事は、「公開義務や量的制限に違法性はないとはいえ、重要な問題をはらんでいる。(略)献金には改定を有利にしようとする意図が見え隠れする。(略)医療費や補助金の一部が政界に還流する構造を象徴している。その構造は医療政策をゆがめる恐れをはらんでいる」と記している。

オランダの農家は怒っている

日本農業新聞(3月21日付)の2面には興味深い記事ふたつ。

ひとつは、農業分野の規制改革を訴える竹中平蔵氏が社外取締役を務めたことで知られるオリックスが、兵庫県養父市で農業事業を手がける子会社(オリックス農業)の全株式を手放したことである。要因は、当初の計画通りには収益が上がらなかったこと。今月中にも、出資する同市内の別の農業法人(やぶファーム)の保有株式もすべて手放す方針で、すべての農業事業から撤退するようだ。

農業は儲かりまへんなぁ~。損切りは早く、逃げ足も速い。

もうひとつは、「びっくりするニュースが、オランダから伝わってきた」で始まる、山田優氏(同紙特別編集委員)によるコラム。

それは、「農家を母体とする農民市民運動(BBB)党が先週、上院議員を選ぶ投票で予想をはるかに上回る支持を集め、第1党に躍り出た」こと。下院議員が一人しかいなかった同党は、上院75議席中15議席を占める大躍進を果たした。

ことの始まりは、オランダ政府が厳しい窒素排出規制を決め、家畜数の削減を義務付ける計画を進めたこと。これに反発した農家が数年前から大規模な抗議活動を続けてきたが、この取り組みに今回の選挙で追い風が吹いたそうだ。

その伏線は「地方の有権者には根強い不信があった」こと。「オランダの政治は都市部の政治家が決め、そのしわ寄せを受けるのはいつも自分たち。こうした批判の受け皿となったのがBBBだった」と見立てるのは、現地の農業ジャーナリスト。

欧州の農業政策が近年環境重視に軸足を置くことで、農家の負担は増すばかり。「自分たちが不当に虐げられている」と農家が反旗を翻したことに、地域の人たちが共鳴したようだ。

コラムは「既存政治がうまく機能しない時、ちゃぶ台をひっくり返したオランダの農家に学ぶ点は多い。そう言えば最近の日本の農家は物分かりが良過ぎて怒っていないように思うのだが」と結ばれる。

この国に酪農は不要なのか

「昼夜働けど月赤字150万円」という見出しで、飼料高騰などで窮地に陥る酪農を1面で取り上げているのは西日本新聞(3月15日付)。まずは二軒の酪農家の実情から。

「辞めるなら、今かもしれない」とため息混じりで語るのは、福岡県嘉麻市の江藤健太郎氏(26)。

牛約150頭を飼育し、必要な飼料は1日に7トン。飼料代は、従来の1頭当たり1日1800円から2200円に。牛は栄養に敏感で、安価な飼料に変えれば乳量が落ちる。光熱費も値上がりし、最近は毎月、平均150万円の赤字。金融機関からの借金でしのいでいる。「これだけ働いて赤字じゃ、モチベーションが保てない」と嘆く。

生乳生産量が全国3位を誇る熊本県で、約70頭を飼う和水町の大村英治氏(66)の牧場も同じく苦しい。

餌代が生乳の売り上げを上回り、赤字が100万円超に達したこともあったそうだ。

乳価は昨年11月、飲用向けが1キロにつき10円上がったが、コスト上昇にはとても追い付かず、「乳価がさらに上がらなければ、どうしようもなくなる」と天を仰ぐ。

同紙3面ではその乳価交渉と、価格転嫁の難しさを報じている。

福岡県内の酪農家が所属する「ふくおか県酪農業協同組合」の波多江孝一酪農部長によれば、生乳の生産コストに占める飼料代は通常、半分程度。ところが、昨年末の飼料価格で計算すると、8割近くに達しており、「これじゃあ、どう計算しても金が残らない」と、ここでも嘆きの声。

生産者団体と乳業メーカーの交渉で決まる乳価は、年度初めから適用されるのが慣例であるため、酪農家にとっては臨機応変にコストを販売価格に転嫁するのが難しい。飼料価格の高騰による昨年11月の値上げは、9年ぶりに年度途中に行われたが、「焼け石に水程度」とは酪農家の声。

ジャーナリズムこそ怒れ

牛を救え!酪農家を救え!酪農を救え!畜産を救え!農業を救え!と、はらわたが煮えくり返る酪農家は怒っている。

「物分かり」という問題ではない。ジャーナリズムこそ、怒ったらどうだ。それとも、はらわたが腐ってきたのかな。

「地方の眼力」なめんなよ

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