(325)高祖母の時代【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2023年3月24日
お彼岸の時期でもあるので、少し昔のことを調べてみました。
父方の高祖母(祖母の祖母)の1人は天保元(1830)年の生まれである。19世紀前半から20世紀初頭の方と書けば味気ないが、視線を彼女の年齢に合わせ、年代を辿ると世の中の動きが生々しく感じられる。
誕生の年はお伊勢参りが盛んであったようだ。竹の花ではないが、江戸時代には約60年に1度、お伊勢参り流行したという。飛行機・鉄道すらない時代に、半年から1年をかけ全国の多くの人が動いた一大イベントである。現代人の感覚では海外旅行、あるいは少し前の「Go To何とか」のようなものかもしれない。
天保2(1831)年、ロシア船が蝦夷に侵入し、現地で小競り合いが記録されている。
天保3(1832)年、江戸では鼠小僧が捉えられ、処刑されている。
天保4(1833)年、高祖母3歳。ようやく物心がついた頃、世に言う天保の飢饉が始まる。この飢饉は数年間(1837~1839年頃まで)続いた大飢饉である。3~9歳までが飢饉と考えると壮絶な幼児体験をしたかもしれない。中学の歴史で学んだ大塩平八郎の乱は天保8(1837)年である。
天保は14年まで、その後年号は弘化に変わる。信州で10代前半の多感な年頃を迎えた高祖母のもとに、当時どれだけの情報がもたらされたかはわからない。この頃、日本各地の港にはアメリカ船(モリソン号、1837年)、イギリス船(1843年)、フランス船(1844年)、アメリカ船及びイギリス船(1845年)、アメリカ船(1846年)など、各国の船が毎年のように来航し、幕府は対応に追われる。当初は漂流民の保護、次第に通商を求められた時代は、現代で言えばTPPの議論や外資系企業が続々とM&Aを実施しているような感覚に近いかもしれない。いずれもペリー来航以前の話である。弘化は4年で終わり、嘉永元(1848)年、時に高祖母18歳、現代では高校卒業か大学1年生の年頃である。
嘉永5(1852)年、22歳の高祖母は3歳年上の中浜万次郎が米国から土佐に戻ってきたことをどう感じていたのだろうか。翌、嘉永6(1853)年、黒船来航。帰国した万次郎は正式に幕府に登用される。世が世なら考えられない大出世である。彼はもしかすると当時の若い女性には「時の人」だったのかもしれない。嘉永は6年の後、時代は安政に移る。
安政元(1854)年、高祖母24歳の時、ペリーが再来航し日米和親条約が結ばれる。
高祖母の20代後半は安政、30歳が万延元(1860)年である。この年、勝海舟らは米国に咸臨丸で出向し、江戸城では桜田門外の変が起こる。
30代前半は文久(3年間)と元治(1年間)、後半は慶応年間になる。考えてみればこれは凄い。幕末一番の動乱時期に30代を前半・後半で過ごした世代である。この世代が経験した価値観の変化は太平洋戦争の終戦前後に近いかもしれない。
慶応4(1868)年は途中で明治元年となる。高祖母38歳。激動の時代が一区切りついたが、まだ世相は落ち着いていない。明治4(1871)年、41歳のときに廃藩置県である。
明治5(1872)年、学制発布の年、高祖母は42歳。全ての国民に初等教育の義務が定められた。娘に当たる曾祖母の年齢から察するにもう少し早ければという思いがあったかもしれない。
明治13(1880)年、高祖母50歳。この頃、世間では自由民権運動が盛んになる。その後、明治18(1885)年に内閣制度が出来、明治22(1890)年、高祖母60歳の時に大日本帝国憲法が発布され、翌年第一回衆議院議員選挙と帝国議会となる。
明治27(1894)年1月、朝鮮半島では甲午農民戦争とも呼ばれる東学党の乱が起こる。当時の李氏朝鮮政府は鎮圧の支援を清国に求めた。それに対し、居留民保護を目的として日本も派兵している。7月25日からは日清戦争である。
記録によれば、高祖母はこの年8月上旬64歳で亡くなっている。後世の我々はその後の世の中の展開を知っているが、当時の彼女にはわかるはずもない。幕末から明治の動乱を生き抜いた後、あらたな戦争の始まりを今際の時に、どのような思いで聞いていたのだろうか。
* *
歴史は、身近な人の生涯の目線に合わせてみると意外と面白いものです。
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