(326)セリとパプリカ【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2023年3月31日
4~3月の年度を採用している組織では、3月31日が年度最終日となります。大晦日とともに、1年を振り返る機会ですね。一昨日、勤務先で参加したあるシンポジウムがちょうどよい機会となりました。
2011年3月11日の東日本大震災後に全国各地で数多く使われ始めた言葉に「絆」がある。震災を機に、抽象的な「世の中」「グローバル」そして「世界」などではなく、自分達が毎日生活している足元の重要性を多くの人々が再認識したからであろう。
正確には思い出せないが、その伏線として恐らくは震災前から「地域」という言葉が各所で使われるようになっている。かつては「町」や「村」としてのまとまりであったものが、今や広域合併などの進展により、良くも悪くも伝統的な呼称が包括的な「地域」という言葉に変化してきたようだ。この件は、とりあえず置いておく。
さて、宮城県では宮城大学・宮城県・宮城県食品産業協議会・食産業フォーラムにより「絆シンポジウム」が今年も開催された。同僚の緩鹿泰子講師が「農業・食品産業・消費における食と農の持続可能性について」と題して基調講演を行ない、その後、地元の農業・食品関係事業者からの事例紹介など、宮城県の農業と食品産業の現在を俯瞰する良い機会となった。
興味深かった点をひとつだけ備忘録代わりに記しておきたい。宮城県のブランド食材についてのアンケート結果の紹介である。認識度が高いものは、コメ、和牛(仙台牛など)、イチゴ、牡蠣、ホヤ、サバ...、そしてセリである。講演ではこれ以外にも曲がりネギやゆきな、みやぎサーモンなどが紹介され、いろいろと思い出した次第である。
以下は、筆者の雑感である。
春の七草のひとつであるセリは、ここ10年ほどの間に急速に宮城県の新しい名産品となった。産地として有名なのは仙台市の南にある名取市だが、消費地としては冬から春の仙台に来たら、牛タン・牡蠣・セリ鍋...、という形が定番かもしれない。
セリの生産量は全国で1,000トン強、そのうち宮城県は4割、400トン強を占める第1位だ。こう考えると何となく当たり前のような気がするが、事はそれほど簡単ではない。例えば、宮城県はパプリカの生産量も全国1位であり、全国約6,700トンのうち1,400トン弱を占めている。生産量はセリの3倍以上もあるが、セリほどは知られていない。
野菜の生産量でいえば、きゅうりが最大(14,000トン)で、1万トンクラスが大根、白菜、トマトと並んでいる。きゅうりに比べればセリの生産量は30分の1である。
農産物の地域ブランド化は、全国至るところで行われている。関心のある方も多いであろう。生産者を含めた関係者には、多くの人に知ってもらいたい、味わってもらいたいという気持ちとともに、その地域ならでは...という感情がある。また、希少性を売りにしつつも、一定量の数を捌かないと収益的にも厳しいというこれも難しい問題がある。
この2つに加え、素材そのものだけでなく、その素材を用いた料理や食べ方、つまりシーズを活用するニーズの広さと深さが大きく影響する。セリの場合、従来型の「春の七草」のひとつとしての素材に加え、「根」まで食べるという食べ方の新鮮さと、鍋料理という素材次第で様々なバリエーションが追加可能なニーズの中にうまく入り込めたという点も大きい。具材として海産物や肉類が多いガッツリ系鍋料理の中で、セリの緑は見た目にも、そして現実的にもヘルシー系を指向する消費者ニーズに合致したのであろう。
セリ鍋が当初からヘルシー系を意図していたかどうかは不明だが、仮に後付けの理由としてでも十分に納得できるからこそ、新しい柱になりつつあるのかもしれない。
さて、数量的には圧倒的に多い、パプリカやその他の野菜の今後をどうするかは今後の大きな課題であり知恵の絞りどころ、こちらは来年以降に期待したい。
* *
「芹・薺・御形・繁縷・仏座・菘・蘿蔔」。「春の七草」も最近は何でもカタカナになるので、あえて漢字で記しておきます。
重要な記事
最新の記事
-
飼料用米多収日本一 山口県のあぐりてらす阿知須 10a当たり863kg2025年3月3日
-
【特殊報】ナシ胴枯細菌病 県内で初めて発生を確認 島根県2025年3月3日
-
政府備蓄米売り渡し 入札 3月10日に実施 農水省2025年3月3日
-
新潟県の25年産米概算金「コシ2.3万円」 早期提示に歓迎の声 集荷競争、今年も激化か2025年3月3日
-
米の集荷数量 前年比23万t減に拡大 農水省2025年3月3日
-
米価高騰問題への視座【森島 賢・正義派の農政論】2025年3月3日
-
【次期家畜改良目標】低コスト、スマート農業重視 酪農は長命連産、肉牛は短期肥育2025年3月3日
-
【改正畜安法の現状と課題】需給対策拡大が焦点 問われる「国主導」2025年3月3日
-
あなたたちは強い〝武器〟を持っている JA全国青年大会での「青年の主張」「青年組織活動実績発表」講評 審査委員長・小松泰信さん2025年3月3日
-
JA農業経営コンサルタント 15人を認証 全中2025年3月3日
-
【人事異動】農林中央金庫(4月1日付)2025年3月3日
-
農業用バイオスティミュラント「エンビタ」とは 水稲育苗期にも効果 北興化学工業2025年3月3日
-
アミューズメント施設運営「ティスコ」株式を譲受 農林中金キャピタル2025年3月3日
-
「2025ローズポークおいしさまるごとキャンペーン」でプレゼント 茨城県銘柄豚振興会2025年3月3日
-
福岡ソフトバンクホークスとのオフィシャルスポンサー契約更新 デンカ2025年3月3日
-
ファーマーズ&キッズフェスタ2025 好天で多数の参加者 井関農機は農業機械体験2025年3月3日
-
【今川直人・農協の核心】産地化で役割が高まる農協の野菜取り扱い2025年3月3日
-
野菜がたっぷり食べられるカレー味「ケンミンカレー焼ビーフン」新発売2025年3月3日
-
第164回勉強会『海外市場での植物工場・施設園芸の展開』開催 植物工場研究会2025年3月3日
-
春の山梨の食材の魅力を伝えるマルシェ 5日から国分寺マルイで開催 雨風太陽2025年3月3日