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個の力、チームの力の発揮をめざそう!【JAまるごと相談室・伊藤喜代次】2023年4月4日

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WBCの侍ジャパンの優勝で教えられたこと

A・ライフ・デザイン研究所 代表 伊藤喜代次

久しぶりに痛快で、歓喜とともに、幸せな気分に浸った。アメリカ・マイアミで開催された「第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)」で、日本代表「侍ジャパン」が前回大会優勝の米国を3―2で破り、世界一奪還である。前日の準決勝の劇的な逆転勝利は、優勝を確信させた。

開幕までは、大谷とダルビッシュにおんぶに抱っこのシリーズ、アメリカまで行ければいいか、と思っていたが、勝ち進むうちに侍ジャパンの個々の力、チームの力が高まり、頼もしくなっていくのを感じた。

その要因の一つと思ったのが、栗山監督の存在であり、彼の言動と行動である。これまでの野球の監督、リーダーとは、まったく異なるイメージだ。選手の自主性とか、選手の方から提案してくるとか、最初は、理解できなかった。理解できたのは、WBCでの決勝戦後。監督からのサインで選手を動かしたことは数回しかなかった、というヘッドコーチの話からだ。

野球のチーム作りや実戦では、強力な監督の経験と知識、そして権限によって、指示・命令でゲームが展開することには誰も不思議に思わない。チーム作りや運営では当たり前のことであると誰もが信じてきた。

今回のWBCでの侍ジャパンの優勝によって、2010年以降の野球少年の急速な減少に歯止めがかかるかもしれない。同時に、少年野球のチーム数やグラウンド数などの減少にも歯止めがかかればいいと思う。

近年、少年野球の人口減少は、少子化の影響も大きいが、サッカー少年の増加が影響している。その理由の一つは、サッカーは楽しいけど、野球は苦しい、などと子供たちの話があるほどの違い。それは、監督やコーチの旧態依然とした指導方法、練習方法、ミスやエラーに対する厳しい体罰のような指示や命令など、"軍隊みたい"だという声まであるという。時代に合っていないと指摘する人もいる。

侍ジャパンの優勝や栗山監督が体現した思考や行動、チーム作りが、どのような変化をもたらすか、長年続いた野球界の"常識"の「変革の機会」となることを信じたい。

渋柿は渋柿のまま使え、虎は虎のまま使え

実は、スポーツでの選手の指導は、ビジネス界とも共通するところがあり、とくに、コーチングについては、広く知られている。というのは、従来の選手指導は、「指導・教導・教育する」といった考え方が強く、ビジネスの世界でも、上司や先輩が新人を指導する、教育する、育成するという考え方と共通する。これは、コーチングではなく、ティーチングである。

コーチングの特徴は、本人に気づかせ、答えを見つけさせ、自らが練習目標を作成し、実行することにある。箱根駅伝の常勝校となった青山学院大学、昨年、夏の甲子園で優勝した仙台育英学園高校のチームの指導方針だ。

ダメなところを直す、教える、指導するというスタイルでは、ゲーム中でも監督やコーチの指示を待つ、自分では考えない、言われたことしかしないという選手をつくる。近年、主体性や自発性、思考力と行動力を重視するスポーツ・コーチングが、ビジネスにも活用される理由はここにある。

栗山監督は、これまでの野球人とはイメージが異なり、相当な読書家である。4年ほど前に出版された栗山監督の著書を読んで、プロ野球の選手とは思えない読書量と領域の広さに感心したものだ。

余談だが、栗山監督の著書のなかで「虎は虎のまま使え」、「渋柿は渋柿のまま使え」の2つの言葉を紹介する。「虎は虎のまま使え」と言ったのは、戦後の名監督・三原脩氏で、「渋柿は渋柿のまま使え」の言葉を残したのは、武田信玄公だ。

栗山監督の考えは、しょせん、チームを一つにまとめることはできないし、無理にまとめようとしないことで、虎と渋柿の話を紹介する。三原脩氏は、個性的な虎の良さを活かし、野武士のような選手たちをまとめようとしない、自然と力を発揮してくれる情況を作ることだという。

また、同じく渋柿に関しても、信玄は、渋柿には良さがある。渋柿を無理に甘くすることは小賢しく愚かで、渋柿は干せば、干し柿として甘柿よりも甘くなる、それぞれの長所を生かすことが大切だと言った。

人の能力を伸ばすのは、それぞれの持っている強みや良さを伸ばすこと、活かすことにあると、理解している先人がいたのだ。ティーチングではなくコーチング、チーム力は、まとめて生じる力ではなく、メンバーの個性を発揮させることである、と。

管理職がしゃしゃり出て、「俺が部下を育てなければ・・・」とか、「職場のチーム力の発揮は、俺の強いリーダーシップが必要だ」といった勘違いが、個々のスタッフのやる気を挫き、思考力と行動力のないチームを醸成してしまう。大いに注意したい。

スポーツ界にも、ビジネスの世界にも、「人を活かす」、「チーム力の発揮」についての新しい波が起き、津波のようなパワーが生まれれば、沈み込んだ日本の社会や経済にも好影響が生まれそうだ。

本コラムに関連して、ご質問、ご確認などがございましたら、お問い合わせフォーム(https://www.jacom.or.jp/contact/)より、『コラム名』を添えてご連絡ください。コラム内又はメールでお答えします。

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