花産業がもっとも依存しているのは「物日(ものび)」【花づくりの現場から 宇田明】第8回2023年4月20日
花産業は、輸出入では中国、購入額ではシニアに依存していることを、前々回と前回に紹介しました。
今回は、花産業がもっとも依存している物日(ものび)について考えます。
花の生産性が低い理由のひとつは、需要が一定でないことです。売れるときと売れないときには極端な差があります。花が特異的によく売れる日を物日(ものび)、それ以外を平日(ひらび)とよんでいます。生産者から市場、花店まで花産業は物日を中心に回っています。
図は、総務省家計調査(二人以上世帯、2022年)の切り花の月平均購入額を0としたときの指数です。各月の指数が0に近いほど購入額が平準化していることになります。
比較するために、生鮮野菜の指数(青)を示しました。生鮮野菜の月ごとの購入額は、年中ほぼ一定であることがわかります。野菜はひとが生きるための必需品であり、季節によって品目は変わりますが、購入額には大きな変化はありません。
一方、切り花(ピンク)の購入額は月により大きく変わります。もっとも購入額が多い8月は、もっとも少ない1月の2.6倍です。生鮮野菜は1.2倍です。
切り花の指数がプラスになるのは4回。それが物日で、3月の春彼岸、8月の盆、9月の秋彼岸、12月の迎春です。いずれも日本の古くからの風習であり、宗教行事、伝統行事です。
前回説明した花産業がシニアに依存している理由は、この物日にあります。宗教行事、伝統行事の担い手はシニアであり、彼岸、盆の仏壇、墓のお供えの花、そして正月に飾る花をおもに買っているのはシニアだからです。
物日は切り花の生産品目にも影響しています。欧米でもっとも需要が多い切り花はバラですが、日本ではキクです。切り花の生産量は32.5億本ですが、そのうち13億本がキクで40%を占めています(2021年)。切り花は1,100種類が流通しているにもかかわらず、キクが40%もつくられているのは、お供えや迎春の花のメインがキクだからです。
彼岸、盆、迎春とは毛色が異なる物日がもうひとつあります。5月の母の日です。母の日は米国から伝わったキリスト教の行事ですが、いまではクリスマスとおなじように、宗教色は希薄になっています。
彼岸や盆は1週間、迎春は2~3週間つづく物日ですが、母の日は5月の第2日曜1日だけです。
そのため、5月は平均額よりすこしプラスていどですが、1日でみると母の日が1年でもっとも花が多く売れる日です。
家計調査の月ごとの購入額は消費者サイドからのデータですが、生産者の出荷量、卸売市場の入荷量でもほぼおなじグラフになります。すなわち、野菜に比べると、花は入荷量の山と谷がきわめて大きい。週、日ではさらに高い山と深い谷になります。このことが花産業の生産性を低下させています。
生産者は物日にぴったり咲かせるのと、物日前、物日後に咲かせるのでは売上に大きな差がでます。需要が小さいときに出荷すると、市況が極端に安いからです。そのため花の栽培でもっとも重要な技術は開花調節です。
市場では、平日を基準にしてせり場、荷さばき場などを設置しているので、物日には場所が不足し、産地からの輸送トラックが長時間の入場待ちになります。従業員数も平日に合わせているので、物日にはアルバイトなどを大量に動員しても人手が足らず、長時間残業など労働環境が悪化します。
産地では、出荷量が平日と物日で大きくかわるので、トラックの手当てが難しく、運賃にも影響します。物流の2024年問題で、もっとも影響をうけるのが花産業です。
このような花産業の本質的な問題を解決するためには、安定した需要が不可欠です。物日の需要を減らすことは本末転倒ですから、平日の需要をかさ上げしなければなりません。
そのためには、それぞれの家庭の誕生日や結婚記念日などのメモリアルデーに花を贈る習慣を定着させることと、物日がない月に小さな物日をつくる活動が必要です。新しい物日が、前回紹介した2月のフラワーバレンタインです。同じ考え方で、1月には愛妻の日(1月31日)、6月には父の日(第三日曜)、11月にはいい夫婦の日(11月22日)などの活動が展開されていますが、普及するのには時間がかかりそうです。
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