(329)「○○な児童生徒数」>「新規就農者数」【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2023年4月21日
昨年9月末に、農林水産省から令和3年の新規就農者は52,290人(前年は53,740人)という数字が発表されました。ここ数年は概ね同水準でしたが今回は多少減少したかなという感じです。ところで、この規模の数字を見ると、別のことも頭に浮かびます。
その時々のメディア報道などの多寡にもよるが、現代社会ではあらゆるレベルでグローバル化が進展するとともに、ローカルの良さを見直す動きも各所で見られる。そして、いずれの動活きにも必ず人の動きが伴う。
さて、こうした一般論や是非論を脇へ置き、足元を見ると実はここ数年で着実に増加しているのが、国籍を問わず日本語指導が必要な子供達の数である。
文部科学省の資料によれば令和3年度の「公立学校における日本語指導が必要な児童生徒数」は、58,307人(前年度は51,126人)であり、ついに同年の新規就農者数を上回った。
官民含め、農業関係者は新規就農者数の推移は熟知していても、今や日本語指導が必要な児童生徒数が新規就農者数を上回る時代になったことをどこまで認識しているかはわからない。だが、これも現実に生じている大きな生活環境の変化のひとつである。また、この子供達の両親の多くが勤務する工場などは意外と農村地域に多いため、実は外国籍の子供達との接点は農村部では身近な可能性が高い。
これらの児童生徒達を国籍という観点で見ると、8割が外国籍、残りの2割が日本国籍である。そして外国籍47,619人のうち31,189人(65%)が小学校に在籍している。
言語別に見ると、日本語指導が必要な外国籍の児童生徒のうち全体の約4分の1がポルトガル語を母語とし、最大数を占めている。在籍する学校は全国で8,436校(うち小学校が5,316校)である。実際の在籍数を見ると、ポルトガル語(11,956人)に次ぐのが中国語(9,939人)、フィリピノ後(7,462人)とこの3言語で29,357人、全体の62%を占める。これに、ヴェトナム語(2,702人)、英語(1,945人)、日本語(1,929人)、その他と続く。
今や、ポルトガル語や中国語、フィリピノ語が片言でも出来ることは、地域によっては小学校の先生や地域の自治体の職員、さらに町内会の役員などにとっては重要なコミュニケーション・スキルであろう。またこうした児童生徒がいる地域の子供達や親達にとっても同級生やその親達と仲良くすごすための重要なツールなのかもしれない。
もうひとつ、気をつけなければいけないのは、対象となる外国籍の児童生徒の中に、使用言語が日本語という子供達がいることだ。この子供達の国籍は様々な事情により日本国籍ではないのだろうが、これも様々な事情により日本語を学ぶ必要性がある状況にいる訳だ。
以上は外国籍の子供達だが、さらに統計を細かく見ていくと、日本語指導が必要な日本国籍の児童生徒が10,688名もいることがわかる。筆者が子育てをした時代とは環境がかなり異なるが、それでも例えば親の仕事の都合で海外駐在が長い場合、学齢期の子供がいる場合などは、どちらの言語を第一の教育言語として育てるかなど悩みは尽きない。程度の差はあれ、そのあたりは現在でも共通しているのかもしれない。
40年ほど前になるが、大学を卒業した時、今は亡き恩師からポルトガル語での仕事は非常に少ないことを聞かされた記憶がある。いくつかの日本の大学と、一部の専門学校くらいしか、当時の日本ではポルトガル語の需要はなかった時代である。たまにあるのはまさに南米やアフリカに出ていくための企業戦士としての仕事であった。それから考えるとまさに隔世の感がある。
* *
もしかしたら、あと何年か先にもう一度頭と身体を鍛えなおせば、こうした分野における「現場の小さな支援」で使い道が出てくるかもしれない...などと考える時がある。
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