侍(?)ジャパン【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第237回2023年4月27日

もう一ヶ月経ってしまったが、先月22日(日本時間)、2023WBCで日本野球代表チームが優勝した。うれしかった。勝利の瞬間、自宅のテレビの前で思わず叫んだ、勝った、勝ったんだ、と思うのだが、声になったかどうか実はわからない。
あの後、ニュースで、特集で、試合終了直後の映像を何度見たことだろう、何度見てもあきなかった。
ましてやそのさいに「侍ジャパン」という公式名称なるものがそれほど使われず、「日本」が勝った、優勝したと言っていたことも気に入った。
私には「侍ジャパン」なる名前が好きになれないからである。
なぜ「侍」をジャパンの上につけたのだろうか。どうしてオールジャパン、全日本でだめなのだろうか。そんなに「侍」はいいものなのだろうか、偉いのだろうか。世界に誇れるものなのだろうか。
そもそも侍、武士階級は当時の日本の全人口の5%程度、まさに少数派でしかない。
それもみんなから選出されたわけでもなければ、任命されたわけでもない。百姓町人よりも優れているからなることができたわけでもない。
そもそもは武力をもって人殺しをしてあるいは謀略で勝った者が武士=侍を名乗って政治権力を握り、お互いにその世襲を認め合い、それを農工商を営む者に武力で押しつけてきただけのものでしかない。源氏や平家の子孫だといっても果たしてどうか、そもそもたどっていけば人間みんなアフリカの奥地生まれの子孫なのだ。
さらに、「切り取り強盗 武士の倣い」という言葉にあるようなことをやり、血族のなかでも殺し合って権力を奪い合い、「胡麻の油と百姓は、絞れば絞る程出る物也」と農工商に従事して働く人々から米や金を五公五民とか六公四民とかで収奪して政治を支配し、能力の有無にかかわらずそれを世襲してきただけではないか。
幸いなことに私はサムライのような「由緒正しき家柄」の家に生まれず、NHK・Eテレのアニメ『忍たま乱太郎』(注1)の主人公の一人・乱太郎と同じく「由緒貧しき家柄」の生まれ、先祖は切り取り強盗をしてこなかった、この「家柄」を誇りにしている。また農産物を生産して人々の命を支えてきたことにも誇りを持っている。
さらに、働く人たち、たとえば農民は、村落を単位に生産と生活を維持するための決まりを自主的に決め、地域社会を維持してきたこと、私の先祖がそういう能力をもっている人たちの一員であったこと、これも誇りに思っている。
こうした農工商の働く人たちは日本を代表する価値はないのだろうか。
もちろん、士族は何もしてこなかつたなどといっているわけでもない。たとえば治安の維持等々の役割をはたしている。しかしそれを担う者は食料や家財道具の生産、その流通を担っている人たちよりも偉いのだろうか。士農工商とか言ってそういうものなのだと支配権力を握った武士階級が武力でもって押しつけてきたただけではないか。
サムライは世界中で知られているから、その礼儀正しさ、律儀さは誇れるものだから、国を象徴する代表する名前としてサムライを使ってもいいではないかと言われるかもしれんない。
しかし、日本の百姓、町人の礼儀正しさ、律儀さ、日本の農業、商工業の素晴らしさも、世界に誇るものとして紹介されている。明治末に東北を旅行し、日本の一般庶民を農業を絶賛した外国人女性イザベラ・バードの記録『日本奥地紀行』(注2)の後半部分を見ればそれがよくわかる。世界に名高い浮世絵、日本の建築物、これも庶民がつくったものだ。
それをなぜ少数派の侍に代表させるのか。
いや、侍の名前が世界に知られているからこれでいいと言われるかもしれない。
しかし、たとえば富士山、桜なども日本を象徴するものとして世界に知られている。そしたらそれを使えばいいではないか。たとえば「SAKURA JAPAN」、「FUJISAN(FUJIYAMAの方がいいかな) JAPAN」、こんなのはどうだろうか。
どうするか国民投票でもやってみるか、憲法改悪・国民投票を急ぐ国会議員諸公は予行演習として大喜びで賛成するかな、それも困るか。
3年後のWBCまでに改名を期待したいのだが、まあ無理というものだろう、日本人の多くは自分もサムライ出身だと思い込んでいるようだからだ。そんな出自を問題にしあってもしようがない。
それはそれとして日本代表の連続優勝を期待することにしよう。私もがんばってそれまで生きて応援したいものだ。
ついでにもう一言、「なでしこJAPAN」、この名前はもちろんこのままでいい、日本各地に自生する「カワラナデシコ」の楚々としたやさしい美しさ、世界に誇っていい花だし、国民も男女問わず異義を唱えないだろうからだ。
FIFA女子ワールドカップの二度目の優勝を期待したいものだ。
閑話休題、次回からはまた本論に戻り、かつて日本農業の重要な部門であったのに今は幻となってしまった養蚕について語らせていただきたい。
(注)
1.毎週月~金曜日18時50分~19時配信「忍玉乱太郎」
2.イザベラ・バード著・高梨健吉訳『日本奥地紀行』、平凡社、2009年11月
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