組合員組織や事業取引などの「流動性」を高めよう!【JAまるごと相談室・伊藤喜代次】2023年5月2日
「流動性」いかんで、組織の盛衰が決まる?
最近、満期から約20年を過ぎた郵便貯金者の権利が消滅した件数の急増をマスコミが報じている。広く預貯金者に対して、満期後の預貯金の口座確認を促す意味があるのだろう。
それにしても、貯金引出しを促す「催告書」の送付件数の8割が貯金者のもとに届いていない、それも毎年増加傾向にある。2007年の郵政民営化前の貯金などを管理する郵政管理・支援機構は、満期後20年2カ月で貯金者の権利が消えるが、ここ数年で消滅額が急増し、昨年度は11.7万件で457億円。同機構が発送した催告書数は、19年度から21年度の3年間で30.6万件、返送されてきた件数は24.4万件である。
JA組織のような地域の金融機関の場合も、こうした状況だろうか、権利の消滅の防止策として、どんな対策を講じているのだろうか。貯金の預かったまま、共済契約したまま、取引・契約内容の確認が難しいように思う。
この文章を読んでいただきたい。
「組織は常に「大きさ」を求める。拡大こそは組織の本能的欲求といえる。だが、それが時には組織の没落と崩壊にも繋がるから難しい。」
これは、堺屋太一・著『組織の盛衰』(PHP研究所刊、1993年)のなかで、「良い組織とは」についての著述である。私は、この図書と出会って、コンサル屋として大事なことに気づかされた。
結論的にいえば、「流動性」に注意を払うことで、組織の成長につなげたい、ということである。といって、経営財務管理上の「流動性」ではなく、組合員や組合員組織、各事業取引などの「動き」に目を向けることの重要性である。
組織の大きさは重要だが、フローとストックに注意すべし
『組織の盛衰』のなかで、堺屋氏はつぎのような興味深い記述をしている。一般に、「良い組織」とは、大きな組織、固い組織、強い組織の三つの尺度があるが、大きな組織とは、組織を形成するヒトと、モノやカネと、情報の三つが多いことをいう。しかし、「多い」といっても、数が多いのか質が濃いのか、フローが多いのか、ストックが多いのかの別がある。
JA組織に当てはめると、組合員数が多い、施設や貯金残高、共済契約高が多い、情報量が多いというのは、組織の大きさを示す尺度だが、常に大勢の人々が組織活動に関与、参加したり、多くのお金が地域社会のなかで回っている、あるいは多くの情報の出入りが多い、蓄積していなくても流動が多い、フローの大きさこそが、組織の活性、元気度、成長性を評価するうえで重要なことだ、と理解したのである。
1990年代(平成初期)、全国のJAは大型合併が相次ぎ、さらに、支所店や営農・経済事業施設の統廃合などに取り組むJAが多かった。私どものような小さな事務所にも、東北から沖縄まで、全国のJAから調査やコンサルの依頼が急増した。
JAの事業や施設の現況調査や事業戦略の策定で、もっとも重視したのは、堺屋氏が主張した「流動性」である。合併によって組織は大きくなっても、組合員の事業取引や利用量の減少対策、JAの活動への参加度を低下させない対策など、目標づくりと現場職員の行動には特に留意した。合併でも、支所店の統廃合でも、組合員組織だけはそのままにし、担当職員を付けて活動支援体制を用意した。
また、支所店や事業施設の店舗では、「一人たりとも組合員を失わない」をキャッチフレーズにして取り組んだ。なかでも、来店者数を増やす、組合員の貯金種類や口座振替、年金受取や給与振込みなどの件数を増やす、取引の多重化、総合口座の定期・定積・自動振替などのセット化などを高めるなど、「流動性」に関する数値目標を掲げた。統廃合後、1か月ごとに目標数値と実績を比較し、支所店ごとでの話合いを行ったものである。
当初は、JA役職員からは「その実践は難しい」、「そこまで対応する余裕がない」といった声が聞かれた。それでは、合併や統廃合が、JA組織の成長よりも後退の道を歩みかねない、なんとしても、努力して「流動性」の目標を達成しようとロードマップを策定、マーケティングの力を借りて取り組むこととし、職員のミニ研修や支所店のモデリングに取り組んだ。
また、JA合併や支所店・営農経済センターなどの統廃合の計画・調査段階で、組合員の事業利用の実態データを分析。JAの事業の総合的、複合的で利用度合いの高い組合員およびその家族など、計画的に訪問する世帯をセグメント(細分化し、グルーピングする)して、訪問スケジュールを立てる。統廃合の半年ほど前から、訪問活動に取り組む。大口の貯金者や共済契約者も対象とするが、幅広くJAを利用してくれている組合員世帯や年金受給者を最優先した。
合併・統合すれば数字は黙っていても大きくなるが、取引度や利用度を高め、お金の流れを大きくする、周辺地域の住民のみなさんの利用度を高めて、マーケット占拠率を向上し、組合員数を増やす。「流動性目標」は、職員にわかりやすい現場組織の自己成長目標でもある。
県一のような大規模化したJAが生まれ、事業高や収益性が重視されるなかで、「流動性」を意識した協同組織としての特性発揮の課題、現場目標の設定を検討するような役職員がいてくれるとうれしいのだが。
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