今こそ伝えたい戦前・戦後の日本経済を支えた養蚕【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第238回2023年5月11日
養蚕、もう日本ではなくなってしまっているのに、何を今さら、と言われるかもしれない。
でも今こそ、まだ記憶に残っている人がいる今だからこそ、書いておきたいのだ。そしてもう一度あの頃を、日本の養蚕の素晴らしさを思い出し、本当にこんなことでよかったのかを考え、養蚕の二の舞を踏むことのないようにする、こんなことから書かせていただくことにしたものである。
米と繭、この二つは戦前の日本資本主義発展を支えた柱であった。その繭が世紀末には姿を消してしまった。
いや、こう書くべきなのか、米と繭、この二つは神代の昔からあったものだった、そのうちの繭が20世紀末に大和の国からなくなってしまった、どう神様にお詫びしたらいいのだろうか、やがて米もそうなるのだろうかと。
ふと疑問になってきた、今の若い人たち、繭を見たことがあるだろうか、いやそもそも繭を知っているだろうか。
教科書に書いてあった、ご両親、お祖父ちゃん・お祖母ちゃんから聞いて知っているという方がおられるかもしれない、それだとうれしい。
そうである、繭=マユとは、蚕=カイコという蛾の幼虫が休眠のさいに蛹(さなぎ)を保護するために自らつくる覆いのことを言う。そしてその繭から人間が取り出した糸を「絹糸」と言い、それを織って作った布を「絹織物」と言う。
この絹は美しい光沢、すぐれた染色性を持っており、古くから人々に愛用されて「繊維の女王」と評され、高い価格で取引されてきた。
そしてこの繭と米は「神代の昔」からわが国で生産されてきたのである。
さてまた話を戻そう、戦前の日本資本主義発展を支えた柱の一つの米、これは地主の土地を借りている小作農家から地主に納められる小作料となり、地主はそれを販売して得たお金を銀行に貯蓄し、商工業に投資して、あるいは資本主義創出を急務とする政府に税として納めて、資本主義の発展を支えた。
また、こうした地主制支配のもとでの農民の貧困を利用して農家の生産した繭を買い叩き、同時にその繭から糸を取り出す製糸工場で身売り同然で農村部から連れてこられた女工を長時間低賃金で働かせてつくった生糸を大量に輸出して、日本は外貨を稼いだ。工業はその外貨で外国から機械などを買い、また政府は軍艦等の武器を買って植民地を侵略し、資本主義を発展させてきた。
したがって政府は、米と並んで養蚕を重視し、その生産を推奨した。
農家も積極的に養蚕に取り組んだ。
少ない土地から、とくに米のような相対的に有利な作物のない畑地から多くの所得を得るためには、同じ土地面積で桑の栽培と蚕の飼育との二つで労働力を燃焼できる労働集約的な養蚕に力を入れるより他なかったからである。
私の生まれた東北地方もそうだった。水田にできない(たとえば水の少ない)土地に桑を植え、繭を生産した。とくに、福島から宮城にかけての阿武隈山地の畑に、また扇状地で形成されている盆地(たとえば私の生家のある山形内陸)では水の伏流する扇央部の畑に、桑が植えられ、大養蚕地帯が形成された。もちろんそこだけではない。東北はもちろん全国のほとんどの地域で養蚕が営まれた。
私の生家も若干の桑畑を持ち、養蚕を営んでいた。しかし私の生まれる寸前に止めた。桑畑がすべて新設の小学校用地として買収されてしまったからである。それを契機に野菜に力を入れるようになるのだが、私の物心ついた頃はまだ蚕具がいくつか残っているだけだった。
でも私は養蚕を体験している、母の実家が養蚕農家だったからだ。
母の実家でも、私の生家でも、蚕のことを「おごさま」と言った。共通語でいえば「おこさま」、漢字で書けば「お蚕様」である。そうである、「お」をつけた上に「様」をつける、それだけ蚕を重要視し、大事にしていたのである。
この養蚕がどのように営まれてきたのか、戦前のことについては私の母の実家の場合を例にして前に本稿で述べさせてもらった(注)ので、戦後それがどのように発展してきたか、さらにはどうして消滅してしまったたのかを、以下述べさせていただきたい。
(注)本稿2020年5月21日掲載・第99回「養蚕に不可欠だったわら工品」参照。
https://www.jacom.or.jp/column/2020/05/200521-44425.php
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