【JCA週報】外国人実習生の実態と協同組合への期待(榑松佐一)2023年5月15日
「JCA週報」は、日本協同組合連携機構(JCA)(会長 中家徹JA全中代表理事会長、副会長 土屋敏夫日本生協連代表会長)が、協同組合について考える資料として発信するコーナーです。
今回は、本機構の協同組合研究紙「にじ」の最新号である2023年春号に寄稿いただいた「外国人実習生の実態と協同組合への期待」です。
外国人実習生の実態と協同組合への期待
2.実習制度見直しにむけた議論
コープあいち
榑松佐一氏
(1)実習制度廃止論
昨年11月で技能実習制度が施行されて5年の見直し時期に入った。12月には有識者会議が設置され、本格的な議論が始まっている。日弁連をはじめ人権団体からは米国人身売買報告書に「外国人労働者搾取のために悪用」と書かれたことで実習制度廃止論も聞かれる。
なかでもベトナムでの高額借金問題が実習生の失踪理由として指摘され、JICAが事務局で私も参加するJP-MIRAI(責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム)では手数料研究会が議論を行い、送り出し国ごとに問題が違うことを指摘した。厚生労働省も技能実習生の高額な費用負担や人権侵害の実態を調べるため、各国の送り出し機関に対し、初めての現地調査に乗り出すことになった。
実習制度廃止論を主張される方のなかにはなぜ実習制度が守られていないのか、具体的に言及する方は多くない。実習生には「移籍の自由がない」ことが人権侵害の原因だとして、特定技能への一本化を言われる方もいるが特定技能の実態には言及がない。すでに様々な問題が起きているが、特定技能には法的規制がなく、入管は基本方針を掲げるだけで強制的な調査権がない。すぐに退職してしまうため、「移籍の自由」にともなうトラブルが多発している。海外からSNSでの職業紹介には職業安定法も適用されないためブローカーが野放しになりかねない。
(2)日本に必要な労働者として
2000年代はトヨタが下請け単価を毎年のように引き下げ、下請け企業では日系派遣社員に加えて外国人研修生を使うようになった。
2015年には団塊の世代が65歳となり高齢労働者が多い農業、建設業で若い外国人実習生を雇うようになっている。愛知県の渥美半島では大根・キャベツ・白菜といった重量野菜の収穫に外国人実習生が欠かせなくなっている。24時間営業のコンビニ弁当パック工場も深夜に働くパートの不足で実習生を使えるように職種の拡大が行われた。
今後団塊の世代が75歳となる2025年には介護を必要とする高齢者の急増が予想される。それまで全く介護を必要としなかった世代のなかで要介護者が1割、2割と増えていく。いっぽうで、日本人の介護労働者は今でも人手不足だ。特別養護老人ホーム(特養)に大量の待機者がいるのに職員が集まらずベッドが1割も空いている自治体もある。
このように実習制度は出稼ぎ外国人のためだけの制度ではない。外国人労働者はすでに私たち日本人のくらしに欠かせない存在となっている。
(3)適切な受け入れのために
「実習制度廃止論」は人権派だけではない。受け入れ側からももっと簡略で自由な制度にすべきだという声がある。上智大学で開催された公開フォーラムで自民党の元政策責任者はこれ以上の保護制度はいらないと言っていた。しかし、私は日本が必要とする外国人労働者には、受け入れの許可制と保護制度が必要だと考えている。
情緒的な批判だけでなく問題の数量化、海外の移住労働の実態も含めた国際的な議論も必要だと思う。私が昨年末に書いた『コロナ禍の外国人実習生』(風媒社刊)にはその観点から監理団体の問題点や産業別の労働政策などを提起し、議論を呼び掛けている。
①労働者としての受け入れと保護を
②技能実習法の順守徹底を
③SNSでの申告受付を
④機構の体制と権限強化、HWへの登録を
⑤手数料問題
⑥監理団体への罰則強化
⑦産業別雇用政策を
全体の章立ては下記のとおりです。JCAのウェブサイトにて全文を掲載しておりますので、ご覧ください。
はじめに
1.外国人技能実習制度の現状
(1)急激に増えた外国人労働者
(2)「人権侵害」「奴隷労働」という指摘
(3)受け入れ産業の状況
(4)いい会社も少なくない
(5)外国人はなぜ出稼ぎに来るのか
(6)日本での節約生活
2.実習制度見直しにむけた議論
(1)実習制度廃止論(本記事で紹介)
(2)日本に必要な労働者として(本記事で紹介)
(3)適切な受け入れのために(本記事で紹介)
3.協同組合と外国人労働者
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