「日本経営品質賞」を受賞した生協に学ぼう!【JAまるごと相談室・伊藤喜代次】2023年5月23日
日本経営品質賞と顧客満足・経営品質向上
1987年に創設されたアメリカの「マルコム・ボルドリッジ国家経営品質賞」(MB賞)については、先日の本コラムで紹介した。少し乱暴な話かもしれないが、このMB賞創設以後、同国の企業変革、イノベーション、事業創造と新企業の飛躍的発展など、アメリカの企業の変革と発展に大きく寄与したことは間違いない。
90年代以降のGAFAM(「G=Google」「A=Amazon」「F=Facebook(現Meta)」「A=Apple」「M=Microsoft」)の急成長は、顧客志向から生じたビジネス創造と顧客満足のためのイノベーションといえる。
このMB賞創設の検討対象としたのは、戦後の日本のデミング賞(TQC活動=Total Quality Management 総合的品質管理活動)であるとされる。さらに、MB賞を検討し1995年に創設されたのが日本版MB賞の日本経営品質賞で、つながりがある。それだけに、受賞企業が注目される。
ところで、日本経営品質賞は昨年度まで52組織が受賞しているが、中長期の経営変革目標、戦略と具体的な施策、リーダーシップ、成果などが評価対象で、評価のハードルはかなり高いといわれている。
JAも生協も、組合員のための組織であり、組合員の事業利用や満足度が高く、経営の健全性と安定性があり、毎年、組合員・職員のための斬新な施策や組織的変革に取り組んでいれば、受賞の可能性は生まれるはずである。ところが、JAは組合員による組合員のための事業組織であるのに、1組織も受賞していない。一部のJAで、受賞をめざした動きもあったが、及ばなかった。
厳しい言い方になるが、JAの事業活動は、全国機関や県連合会などの方針や目標、推進活動はマニュアル化された実践行動になりがちだ。役職員が自分たちで検討・研究し、工夫をする機会が少なく、個々のJAでの方針や戦略、実践といった独自性が見えにくい点は残念である。
1990年代以降、顧客志向・顧客重視へと企業の行動変化が進展するなかで、JA合併も進んだが、組合員の事業利用満足の追求、役職員の創造的活動、経営の品質向上などへの取組みは一部のJAに止まった感は否めない。
日本経営品質賞の受賞は、数値目標偏重からの転換
ところが、日本経営品質賞を受賞した協同組合が一つだけある。2007年度受賞の福井県民生協である。
私は、受賞前後、福井県民生協とのお付き合いがあって、ずいぶんお世話になった。JA全中の経営マスターコースに毎年、理事長に特別講義をお願いしたり、私が担当する県中央会の常勤役員研修で、現地の福井県民生協に出向き、2日間かけて現場研修を行い、経営論をめぐる討論までお願いした。
この生協の素晴らしさは、目に見えるきわめて多様な取組みを行い、現代のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を10年以上前から取り組んだアイデア・施策が高く評価される点である。これらは、別な機会に紹介したいが、ここであえて強調したいのは、バブル崩壊後の厳しい事業・経営環境のなかで、3年連続で減収減益となる。
そこで、経営執行部は、売上げ数値や取扱目標に偏った経営が、職員の働きにマイナス面が生じ、「組織全体ががらんどう」になり、マネジメントの行き詰まりに気づいたという。そして、「経営品質」への取組みによって、組織風土を180度変えるという方向性を打ち出したことである。
経営の永続的な成長こそが経営の本来の目的であり、「収益性の安定確保」は、きわめて重要なことはいうまでもないが、しかし、収益性が高いことだけが、永続的成長を続けていく経営を保証するものではない。その重要な要素が「経営品質の向上」だという結論を導き出す。
そこで、同生協は、この「経営品質の向上」を、組合員・利用者の満足度向上と利用度向上、地域社会の評価向上と社会貢献、従業員の満足、経営バランスなどの課題項目を設定し、経営品質を構成する要素について、目標理念と数値目標の明確化の必要性を提起する。この経営思考と判断は特筆すべき点である。
同生協は、支援・相談する上部組織や指導組織があるわけではない。自分たちで考え、自分たちで方針、方向、方法を考え出す。あえて、苦しく険しい課題を掲げて取り組んだ結果、4年後に「日本経営品質賞」を受賞する。そして、同生協の福井県における組合員世帯比率は、ほぼ50%を達成するのである。
JAの場合は、指導機関や連合組織が、これから先のJA経営のシミュレーションで収益の減少予測が示され、経営対策を急げ、施設の再編・整備、経費削減、効率化、収益向上に取り組む必要性が指示される。中長期計画を見直し、支店や施設の再編や収支状況の悪い事業からの撤退など、後ろ向きの事業方針や経営施策に汲々とした感じは否めず、結果的には、組合員や職員にとっても受け入れにくいものがある。
将来の経営シミュレーションが悪いとはいわないが、JAの役職員と一緒に考える体制をつくらないと、JAだけでは十分な検討は難しいように思う。全国の中央会にはたくさんの「JA支援部」があると聞く。広い視野と視点での適確な「支援」を期待したい。
◇
本コラムに関連して、ご質問、ご確認などがございましたら、お問い合わせフォーム(https://www.jacom.or.jp/contact/)より、『コラム名』を添えてご連絡ください。コラム内又はメールでお答えします。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(139)-改正食料・農業・農村基本法(25)-2025年4月26日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(56)【防除学習帖】第295回2025年4月26日
-
農薬の正しい使い方(29)【今さら聞けない営農情報】第295回2025年4月26日
-
1人当たり精米消費、3月は微減 家庭内消費堅調も「中食」減少 米穀機構2025年4月25日
-
【JA人事】JAサロマ(北海道)櫛部文治組合長を再任(4月18日)2025年4月25日
-
静岡県菊川市でビオトープ「クミカ レフュジア菊川」の落成式開く 里山再生で希少動植物の"待避地"へ クミアイ化学工業2025年4月25日
-
25年産コシヒカリ 概算金で最低保証「2.2万円」 JA福井県2025年4月25日
-
(432)認証制度のとらえ方【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年4月25日
-
【'25新組合長に聞く】JA新ひたち野(茨城) 矢口博之氏(4/19就任) 「小美玉の恵み」ブランドに2025年4月25日
-
水稲栽培で鶏ふん堆肥を有効活用 4年前を迎えた広島大学との共同研究 JA全農ひろしま2025年4月25日
-
長野県産食材にこだわった焼肉店「和牛焼肉信州そだち」新規オープン JA全農2025年4月25日
-
【JA人事】JA中札内村(北海道)島次良己組合長を再任(4月10日)2025年4月25日
-
【JA人事】JA摩周湖(北海道)川口覚組合長を再任(4月24日)2025年4月25日
-
第41回「JA共済マルシェ」を開催 全国各地の旬の農産物・加工品が大集合、「農福連携」応援も JA共済連2025年4月25日
-
【JA人事】JAようてい(北海道)金子辰四郎組合長を新任(4月11日)2025年4月25日
-
宇城市の子どもたちへ地元農産物を贈呈 JA熊本うき園芸部会が学校給食に提供2025年4月25日
-
静岡の茶産業拡大へ 抹茶栽培農地における営農型太陽光発電所を共同開発 JA三井リース2025年4月25日
-
静岡・三島で町ぐるみの「きのこマルシェ」長谷川きのこ園で開催 JAふじ伊豆2025年4月25日
-
システム障害が暫定復旧 農林中金2025年4月25日
-
神奈川県のスタートアップAgnaviへ出資 AgVenture Lab2025年4月25日