シンとんぼ(45)食の安全とは③「毒性」について考える2023年5月27日
令和3年5月12日に公表された「みどりの食料システム戦略」をきっかけに始まったシンとんぼであるが、そもそも「食の安全」とは何かということを検証しようと試みている(答えが出るかどうかはわからないが・・・)。そこでまずは、「毒性とは何か」をテーマにすえ、前回は、「全ての物質には毒性があり、毒性の有り無しではなく、強いか弱いかで判断すべきものだ」と紹介した。
これを身近な例で考えてみよう。人間の体を維持するためには塩が不可欠であるが、その毎日人が口にする塩ですら毒性がある。毒性を示す数値にLD50(エルディーフィフティー)というものがあるが、塩のLD50は3000mg/kgである。このLD50というものは、半数致死量といって、人畜が一度に摂取した場合に半数が死ぬという量で、数値が低ければ低いほど毒性が強いことを表す。ただ、もう一つ注目してほしいのは、LD50値の単位がmg/kgと表記されているとおり後半の/kgは体重1kg当たりという意味で、体重によって値が違うことである。塩のLD50 3000mg/kgを例にすると、体重50kgの人は3000×50=150,000mg=150gが半数致死量になり、体重50kgの人が100人いて、その100人がそれぞれ150gの塩を一気に摂取すると、100人のうちの半分50名が死んでしまうのだ。同じように体重70kgの人にとっての塩の半数致死量は、3000×70=210,000mg=210gということになり、それだけを一気に摂取すれば半数の人が死ぬことになるのだ。
これをどうとらえるだろうか? 塩は、動物にとって無くてはならない必須な要素であるにも関わらず、大量に摂取した場合は致死率50%の毒になることもあるのだ。つまり、全ての物質は毒性を持っており、使い方や使う量によって、生命を維持するための必須要素となったり、薬にもなったり、もちろん毒になったりもするということだ。
これは医薬品や農薬の世界も同じで、ここに人畜の病気や作物に発生する病害虫に有効なある物質があるとすると、その物質を一生涯食べ続けても毒にならない量を動物実験によって徹底的に調べ上げ、その上で動物実験データを人間に当てはまるために100倍の安全係数を掛けて、人畜が一生涯毎日食べ続けても何ら健康被害が生じない量を決め、その決まった量を超えることが無いように用法・用量が設定されているのだ。
実際には塩150gや210gを一気に摂取することなど不可能ではあるが、必須要素の塩は毒だから「塩の使用を禁止にしよう」などと絶対にならない。同様に医薬品でも、丁度よい量であれば、きちんと病気の症状を緩和してくれるのだが、使用量を間違うと命の危険すら出る場合がある。その場合でも医薬品を禁止しようということにはならない。その理由は、禁止せず上手に使っていった方が利点(=人間の病気を治す)も得られるからだが、なぜ農薬の場合は、作物の病害虫雑草を退治し人間に豊かな食糧供給に貢献するという利点があるにも関わらず、国は一方的に農薬を減らそうとするのであろうか?
(つづく)
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