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S・T・Pで考える事業・活動を実践しよう!【JAまるごと相談室・伊藤喜代次】2023年5月30日

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マーケティングを使わないJA職員

A・ライフ・デザイン研究所 代表 伊藤喜代次

1990年代に入って、JAからのコンサル依頼に加えて、県レベルの中央会の研修や講演を依頼される機会が増えた。研修は、管理職研修や支店長、営農センター長などが対象だ。JAのコンサルの成功例などが、新鮮な話題だったかもしれない。

私は、JAや役職員に遠慮することはないので、ダメなところも、率直に話すことにしていた。たとえば、JA職員は工夫がない、上からの指示で動くだけで、自分で考えない、前年踏襲型の仕事を繰り返すなど。不快に感じた受講者もいたと思う。

この時期は、多くのJAが事業の伸び悩み、事業収益の減少が深刻で、支所店や営農経済センター、生活店舗、ガソリンスタンドなどの施設の陳腐化問題もあった。コンサルでは、中長期での支所店や経済事業施設の再編計画のための調査や提案書が求められたが、事業の伸び悩みの原因は別にあった。

それは、職員の事業活動についての目標と方法に変化と工夫がなかったことだ。端的に言えば、マーケティングとS・T・Pの活用である。

管理職や支店長、営農経済センター長の研修では、いつも「マーケティングを勉強したことのある人は?」、「S・T・Pを知っている人は?」という質問をする。20年前までは一人も手が上がらなかった。10年ほど前でも、数人が手を挙げるくらいだ。

JAは地域は限定されていて、組合員もいるから、これまで通りのやり方で、それなりの実績があげられた。だから、それを毎年踏襲してきた。たとえば、「一斉推進」とか「全戸訪問」などの訪問活動、「○○キャンペーン」、「○○グッズプレゼント」などが代表的なものだ。数十年変わらない事業推進方法が継続されてきた。マーケティングを必要としなかったのである。

講演や研修での最初の"掴みの話"は「マーケティングなくして事業なし」。たとえば、正組合員の年齢別構成、平均年齢を教えてください、と参加者に聞く。支店長さんは自支店の組合員の実情について、一人として、数字を知らない。知っているのは、貯金残高と貸出金残高、組合員数程度だ。

当時、約3割の70歳以上の高齢組合員が貯金全体の半分近くを占めている。もちろん、出資金も同様で、帰ったら調べてほしいという話をする。その結果から、組合員を対象にして何をすべきか、どんな行動を取るべきか、これから、どんな支店づくりを考えるか、これが支店長の仕事である、と。

マーケティングは知識ではない。意図した仕事を見つけ、実践する

さらに、S・T・Pについての説明。「S」はセグメンテーション(細分化すること)、「T」はターゲティング(的を絞ること)、「P」はポジショニング(自社の立ち位置、優位性の確認)のこと。これは、事業の問題を解決したり、考えたり、実践する時のビジネス上の思考法の重要なツール(道具)。限られた職員数で、事業目標をいかに達成するか。これまでとは異なる戦略や方法で実践しようと思えば、支店や現場組織で、このS・T・Pの活用は避けられない。

いつまでも、職員に無理を言って、一斉推進、全戸訪問のような、"労多くして成果少なし"のような推進活動をやる時代ではない。職員のムダ働きを作っていることに気づいてほしい。支店の目標とその実現のための方法を常に考えるべきである、と。

2000年以降になると、「顧客満足」とか「組合員満足」といったワードが、JA内でも使われるようになり、研修でもS・T・Pの具体例を説明する必要が生じた。そこで、支店では「明確な目標をもった支店づくり」の実践と、「意図した支店職員の行動」が求められるようになったこと。その際に欠かせないツールがS・T・Pで、組合員と毎日接する支店の職員の行動やアプローチ活動は、意図した行動が求められるからである。残高一辺倒の推進活動の転換が必要になったからである。

たとえば、「総合口座」の通帳が、「収入」・「支出」・「貯蓄」の3タイプの取引をセットされているかどうか。通帳から得られる情報を整理・分析して、訪問活動の実践プランを考えてもらう。この「利用度の高さ」もまた、JAにとっては重要な関係性の数値だ。

「収入」では、給与・年金などの定期的な収入振込みを指定され、「支出」では五公共料金・携帯電話料金・クレジットカード引落し、さらに、「貯蓄」では、定期貯金、定期積金などがセットされている口座。このような「3点セットの総合口座」の世帯は、JAへの信頼度、好感度が高い、したがって、満足度が高いという仮説が成り立つ。それを、さらに高める接し方、アプローチが必要で、職員の意図する行動が求められる所以だ。

あるいは、1年間に何冊もの通帳を繰り越す組合員はだれかを調べてみる。たとえば、5冊以上は組合員満足度が「非常に高い」という仮説が成り立つ。「非常に高い」組合員世帯を、定期的に支店長が訪問して関係性を高め、同時に、ヒアリングして事業活動の参考にする、といった例もある。

支店や現場組織にとって、マーケティングは身近な存在であり、調べたり考えたりするうえで、S・T・Pによるアプローチは現在でも有効である。DX(デジタル・トランスフォーメーション)の活用が叫ばれているが、支店などの現場自体に「明確な目標をもった支店づくり」や「意図した支店職員の行動」への知恵とエネルギーが蓄積されていないと、上から言われたことを実行するだけの支店や現場になってしまう。

本コラムに関連して、ご質問、ご確認などがございましたら、お問い合わせフォーム(https://www.jacom.or.jp/contact/)より、『コラム名』を添えてご連絡ください。コラム内又はメールでお答えします。

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