【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】肉牛・養豚を救うはずの「マルキン」がなんと機能していなかった2023年6月9日
優れた経営安定政策(通称「マルキン」)があるから恵まれていると思われた肉牛・養豚経営が危機的状況なのはなぜなのか。実は、マルキンが機能していなかった!
TPP対策で牛豚の経営安定対策(家族労働費を含む生産費と市場価格との差を補填する「マルキン」)は、赤字の補填率を8割から9割に引き上げ、豚については生産者負担を1/2から1/4に減らす措置が採られた(政府の実質補填は0.9×0.75で67.5%)。
よく言われるのが、「牛・豚はマルキンがあるから恵まれている。酪農には、それがないから、酪農版マルキンが必要だ」と。ところが、その牛豚のマルキンが機能していないことが判明している。
肉牛については、マルキンの交付金が発動されている。しかし、鳥取県などの関係者からの指摘は、農家拠出金と交付金がほぼ同じで、補填にはなっていない、というのである。養豚は、もっと深刻だ。全国の豚肉生産の2割を占める鹿児島・宮崎の養豚経営では、9割が赤字で、飼料安定基金の特別補填(結局は生産者負担になる)で何とか凌いでいるという。ところが、豚マルキンは、ここ何年も発動されたことがなく、この危機的状況においても、発動されていない。9割が赤字なのに、黒字になっているという算定がされている。拠出金分が持ち出しになっているのである。
これでは、経営継続は困難で、廃業が続出しかねないと現場の危機感は強まっている。標準的生産費に実態が反映されていないとの指摘がある。特に、特に黒豚は肥育期間が長いからその分コストが高くなるが、そういう実態もまったく反映されていない。
牛豚のマルキンについては、まず、1/4の生産者拠出の撤廃と現場の実態を反映した標準生産費の算定方法の見直しが不可欠と考えられる。
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