格差の拡大で没落する中間層【森島 賢・正義派の農政論】2023年6月12日
いまの日本社会の最大の問題は、経済格差の耐え難いほどの拡大である。かつての平等社会の姿は、いまや跡形もない。
格差を原因にして、国民の間に分断を起こしている。カネをめぐって醜く争い合い、互いに憎み合っている。これでは、人々の心を荒廃させる。これでは、農村のような協同社会は成り立たない。社会は崩壊する。
その原因は、生産構造の中にある。市場原理主義を基礎におく資本主義の生産構造にある。人々は、俺ダケ、金ダケ、今ダケという市場原理主義を信奉して、生産の場面にいる。その結果が、経済格差の拡大である。
市場原理主義によって経済が発展する、というのだが、事実はそうなっていない。そこには、労働の喜びがない。
人は何のために働くか。3ダケ主義を信奉していたのでは、社会は発展しないし、明るい未来もない。人間の心を蝕むだけだ。
市場原理主義が続くかぎり、経済格差は今後もますます拡大するだろう。このことを見ておこう。

上の図は、世帯間にある所得格差の最近の現状である。2017年の状態を、以前の1981年の状態と比較した図である。横軸は世帯ごとの年間実質所得金額で、縦軸はその金額以下の世数割合である。所得金額には、各種補助金など、再配分の金額は含めていない。生産段階で受け取る、当初の所得金額である。
この図で示したように、平均所得は580万円から435万円に激減した。4分の1減って、4分の3になった。これまでの市場原理主義政治の結果である。このこと自体が、目を覆いたくなるような無残な事態である。実際に、ほとんどの政治家や学者は、目を覆っている。だが、この点は別稿に譲ろう。
ここでは、中間層の割合を比較しよう。やや恣意的ではあるが、中間層を平均所得の半分以上で、2倍以下とした。恣意的ではあるが、結論を覆すほどではない。
中間層でない世帯をみよう。所得が平均の半分以下の世帯数の割合は、26%から43%に増えた。また、2倍以上の世帯数の割合も、4%から15%に増えた。その結果、中間層は激しく痩せ細って、70%から42%に激減した。所得格差が拡大したことが見て取れる。
◇
以前は、分厚い中間層の存在が、日本の民主主義を支えていた。そういう時代があった。しかし今は、その影もない。経済格差が拡大し、経済民主主義は崩壊してしまった。第2次大戦後の民主主義の土台をを支えた経済民主主義は、崩れ去った。
戦後の経済民主主義は、経済を支えただけではない。日本の民主主義を支えた。それだけではない。人々は、明るい未来を見通していた。
しかし、今や人心は紊乱し、国家の根本を掘り崩すように、民主主義は、崩壊の危機にある。
どうすればいいか。
◇
所得を再配分すればいい、という考えがある。いったん配分したものを、その後で配分し直す、というのである。
だがこれは、当面の苦境を糊塗するための弥縫策にすぎない。また、他人の当初配分所得が入っている財布に手を突っ込み、幾分かを抜き取る、というのである。その先に、どんな未来があるというのか。それを語る人はいない。
これを全否定する訳ではない。だが、盗人根性のようにみえる。盗人根性は、やがて盗癖に転化する魔性がある。弥縫策は、やがてまた綻びる。これでは、明るい未来は見通せない。
なぜ、こうした迷路に入ってしまったのか。
◇
それは、分配段階だけを見て、生産段階を見ないからである。生産段階での労働規制の野放図な緩和、搾取の強化など、当初の配分に格差があることの議論を禁忌にしているからである。
それを議論すると、配分を決めているのは、生産手段を絶対的に支配している生産手段の所有者であることが明らかになる。そして、その必然の結果であるが、彼らは政治の支配者でもある。だから、多くの評論家は、彼らの心中を忖度して、この議論を禁忌にしている。そうして昼行燈を灯し、惰眠を貪っている。学者さえも禁忌にしている。
ここに、市場原理主義が蔓延する原因がある。格差が拡大する原因がある。
格差を是正するには、この禁忌を打ち壊して自由になるしかない。市場原理主義という現代の資本主義を、生産段階の根本から見直して、社会主義・協同主義と社民主義・民社主義との間の激しい理論闘争があっていい。だが、ない。
(2023.6.12)
(前回 食糧安保の国民的合意)
(前々回 経済学の混迷)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより『コラム名』をご記入の上、送付をお願いいたします。)
https://www.jacom.or.jp/contact/
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(172)食料・農業・農村基本計画(14)新たなリスクへの対応2025年12月13日 -
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(89)フタルイミド(求電子剤)【防除学習帖】第328回2025年12月13日 -
農薬の正しい使い方(62)除草剤の生態的選択性【今さら聞けない営農情報】第328回2025年12月13日 -
スーパーの米価 前週から14円下がり5kg4321円に 3週ぶりに価格低下2025年12月12日 -
【人事異動】JA全農(2026年2月1日付)2025年12月12日 -
新品種育成と普及 国が主導 法制化を検討2025年12月12日 -
「農作業安全表彰」を新設 農水省2025年12月12日 -
鈴木農相 今年の漢字は「苗」 その心は...2025年12月12日 -
米価急落へ「時限爆弾」 丸山島根県知事が警鐘 「コミットの必要」にも言及2025年12月12日 -
(465)「テロワール」と「テクノワール」【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年12月12日 -
VR体験と牧場の音当てクイズで楽しく学ぶ「ファミマこども食堂」開催 JA全農2025年12月12日 -
いちご生産量日本一 栃木県産「とちあいか」無料試食イベント開催 JA全農とちぎ2025年12月12日 -
「いちごフェア」開催 先着1000人にクーポンをプレゼント JAタウン2025年12月12日 -
生協×JA連携開始「よりよい営農活動」で持続可能な農業を推進2025年12月12日 -
「GREEN×EXPO 2027交通円滑化推進会議」を設置 2027年国際園芸博覧会協会2025年12月12日 -
【組織改定・人事異動】デンカ(1月1日付)2025年12月12日 -
福島県トップブランド米「福、笑い」飲食店タイアップフェア 期間限定で開催中2025年12月12日 -
冬季限定「ふんわり米粉のシュトーレンパウンド」など販売開始 come×come2025年12月12日 -
宮城県酪初 ドローンを活用した暑熱対策事業を実施 デザミス2025年12月12日 -
なら近大農法で栽培「コープの農場のいちご」販売開始 ならコープ2025年12月12日


































