花屋が1店減ると花農家が4戸減る【花づくりの現場から 宇田明】第11回2023年6月15日
前回は、消費者は花をどこで買っているかを考えました。
消費者の購買行動が変化しており、切り花の購入先は花屋が34%、スーパーが39%(金額ベース)で、花は花屋で買うのが当りまえでなくなりました(総務省家計構造調査)。
マーケットの変化にもかかわらず、生産者は花屋向けの高品質・高単価の一本足打法を続けています。
今回は、花屋と花農家との関係を考えます。
野菜の場合は、八百屋とスーパーの品質・価格はほぼおなじですが、花では大きなちがいがあります。
花屋は業務需要中心で高品質・高単価、スーパーはホームユース中心でコンパクト規格・お手頃価格です。花農家がターゲットを花屋、とくに高級花屋を目標にするのは、市場での仕入価格がスーパーより高いからです。売上を増やすには、スーパーより花屋に買ってもらいたいと考えるのは当然です。
しかし花屋が主に扱っている業務需要が縮小しています。
加えて、スーパーが花の販売に力をいれだしたことで、いわゆる街の花屋が減っています。
このことが、花農家の経営を悪化させ、生産が減る要因のひとつになっています。

花屋の店数と花農家戸数には高い相関があります(図)。
花バブルが崩壊した2000年以降、両者はともに右肩下がり。
両者の減り方から、花屋が1店減ると、花農家は4戸減るという関係が読みとれます。
(花屋の数は商業統計の花・植木小売業の数字を用いていますが、農林業センサスとは調査年が異なることがあり、一部推定値ですので統計学的な相関ではありません)。
花農家にとって花屋は高く買ってくれるお客ですから、その花屋が減って、安く買うスーパーが増えると、当然経営が悪化し、廃業する農家が増えます。
この花屋と花農家との関係から、花の生産振興策が見えてきます。
一つ目は、前回報告したように、過度な花屋=業務需要ターゲットの一本足打法から、スーパー=ホームユースマーケットを加えた二刀流に変えることです。
そのためには、前回説明したように「花屋向けの花を作る農家は一流、スーパー向けは二流」という誤った農家のプライドを捨てることです。
二つ目は、農業施策の転換です。
農家だけを支援しても、経営は改善しません。
花が売れなくなったのは、花屋で花が売れていないからです。
物の流れは川の流れに例えられます。
川下の小売の川幅が狭まっているのに、川上の農家が大量に水を流しても、川下であふれるだけです。
水があふれないように川上の供給量を減らしても、川下の川幅が狭まりつづけているので、さらに供給量を減らして調整することになります。
このようにして花産業は縮小均衡がつづいています。
対策は、川下で水があふれないように、川幅を広げることです。
それは川下の花屋の自助努力と行政のサポートで、花がもっと売れるようにすることです。
花屋で花が売れると、水の流れがよくなり、自ずと川上の生産量が増えます。
それが市場経済。
農林水産省の施策は、農家支援に偏りすぎています。
農業は農家だけで成りたっているのではありません。
川下の小売業者、川中の卸売業者のことをすっかり忘れています。
農業は「つくってなんぼ」ではなく「売れてなんぼ」、さらには「小売が儲かってなんぼ」です。
花屋あっての花農家。
花の生産振興は農家を支援するより、花屋の経営改善を支援するほうが効果的です。
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