(338)大学訪問と20年の変化【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2023年6月30日
長いようで思ったより早く過ぎたな…というのが実感です。現役大学生の多くにとっては自分が産まれた頃の「歴史」でも、親の世代以上にはリアルな体験かもしれません。そして、関心はセーフティからセキュリティへ…。
先日、勤務先の大学で学生達の保護者を対象に大学を紹介するイベントが開催された。参加者の多くは新入生の保護者だが実際には全学年の保護者が含まれる。これを機会に息子や娘が学ぶ大学の中はどうなっているのかを見て頂く訳だ。4年間の学びの体系や、実際の学生による日々の生々しい生活(バイトと睡眠時間確保、その合間に授業の課題処理など)の紹介、就職状況などが緊張を伴いながらも楽しく紹介された。
大講義室での一通りのプレゼンと学内ツアーが終了した後、普段は学生達がランチを食べる学食に場所を移して、教員達との懇談が行われた。小一時間程であったが、大集団では聞けないような質疑のやりとりや、普段あまり接することのない大学教員とのざっくばらんな話をする良い機会である。筆者もその中の1人として懇談に参加した。
コロナ前は、食品加工が専門の教員により準備されたお手製のヨーグルトや、ドーナツなどを一緒に食べながら談笑したものだ。今回は簡単なドリンクだけであったが、いずれ軽食なども楽しめる形になれば良いと思う。
現在の中高年以上の世代の方々にとっては、大学がこのようなイベントを行うこと自体が意外かもしれない。実際、筆者も自分が大学生の時に親が大学に来たのは確か卒業式の時だけだった記憶がある。当時の感覚では良くも悪くも大学は親と離れて初めて確保した自分だけの空間であった。通わせてもらった親には申し訳ないが、自宅とは切り離していたかったのかもしれない。周囲も大学生はそんなものだと暖かく見守られていた訳だ。
子供の進学を機会に、大学をより身近なものとして、親や地域の人々に教育内容や施設を公開し、お互いに納得した上で一定の時間を過ごす。こうした取り組みは既に何年も前から行われている。背景には、大学進学率が上昇したことや、少子化の影響、学生確保のための一種のサービス、さらに社会全体における価値観の長期的な変化など様々な理由が考えられる。基本的に悪い事ではない。
イベントの冒頭で、簡単な挨拶を頼まれた際、何となく考えていた内容を話した。
今の大学生が産まれた約20年前、日本は「食の安全・安心」に翻弄されていた。ざっと思い出しても、口蹄疫(2000年3月)、BSE(狂牛病)(2001年9月)、雪印などの食肉偽装(2002~04年)、鳥インフルエンザ(2004年1月)、毒入り餃子事件(2007~08年)、そして再び口蹄疫(2010年4月)と「食の安全・安心」を揺るがす事件が相次いだ。
その後、今日に至るまで、食料・食品・農業・畜産などの関係者は「食の安全・安心」に心血を注いできた。その結果、今日ではHACCPやGAPのような仕組みも数多く導入されている。
振り返ると、本当に「フ―ド・セイフティ」一色の20年であった感じがする。
それが、ここへ来て少々様相が変化してきた。2020年以降の新型コロナウイルス感染症の拡大とそれに伴うロックダウン、これで流通と外食が多大な影響を受けた。さらに2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻である。食に関する世界と日本の関心は「フ―ド・セイフティ」から「フ―ド・セキュリティ(食料安全保障)」へとシフトした。
少子高齢化と人口減少という問題を抱え、穀物や油糧種子の多くを輸入に依存する日本の「フ―ド・セキュリティ」は、古い映画のタイトルではないが「今そこにある危機(Clear and Present Danger)」になりかかった訳だ。これを一過性のブームにしないことが肝要であろう。
* *
「宮崎県口蹄疫復興メモリアルサイト」(注1)を見ると、2010年の口蹄疫では、297,808頭という数の家畜が処分されたようです。「忘れない そして前へ」は大事ですね。
1 宮崎県口蹄疫復興メモリアルサイト。アドレスは、https://www.pref.miyazaki.lg.jp/shinsei-kachikuboeki/shigoto/chikusangyo/h22fmd/index.html (2023年6月27日確認)
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