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「中抜き」ビジネスの進展とJA事業の課題に取り組もう!【JAまるごと相談室・伊藤喜代次】2023年7月4日

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急成長するビジネス、金融機関も「中抜き」?

A・ライフ・デザイン研究所 代表 伊藤喜代次

最近になって、私たちの周りで気になる言葉が大きな存在感をもつようになってきた。「中抜き現象」とか「中抜きビジネス」といった言葉だ。中抜き現象とは、「企業が消費者に直販を行い、卸売や代理店、小売業などの流通業者が不要となる現象」(グロービス経営大学院『MBA用語集』から引用)であり、ビジネス用語として一般化している。

「中抜き現象」というビジネス用語は、20年ほど前からネット取引の拡大、企業が消費者に直販を行い、卸売や代理店、小売業などの商品の流通において、中間に位置している業者を省く取引が増え始めた。こうした現象は、ネット取引に関わる流通部門だけでなく、あらゆる産業やビジネスに広がっている。

たとえば、金融機関の貸出、振込みなども、中抜き現象が起きている。もっとも典型的なのは、クラウドファンディング(「クラウド(群衆)」と「ファンディング(資金調達)」をつなげた造語)。資金調達において、ネットを利用して情報が提供され、不特定多数の賛同者から少額の資金調達をすることで、スピーディーな対応ができる。金融機関が多くの利用者から預貯金を集め、資金を必要とする人を募り、審査し、貸出実行するという金融業務の中抜きだ。

また、パソコンやスマホから直接、振込みや送金などの資金移動もできるようになった。金融機関の窓口やATMでの送金手続きを自宅で居ながらにして実行する。土日祭日でも深夜でも可能だ。長らく続いてきた手形・小切手制度も、社会のデジタル化、電子取引化が急速に進展するなかで、企業の生産性向上や金融機関の決済の効率化等の阻害要因になった。銀行業界は2026年末までに業務を停止するという。

大胆な事業システムの見直しで「中抜き」を具体化

こうした経済の「中抜き現象」が進むなかで、中抜きを自らの企業行動に位置づけ、急成長している企業もある。世界各国に店舗展開する衣料品販売店の「ユニクロ」である。原材料の仕入れ、自社工場で製作する洋服などの商品は、すべて自社店舗で直販し、また、ネットで販売される。かつて存在した中間流通業者は完全に「中抜き」され、それでカットされたコストが商品価格を引き下げ、競合店との競争力の高いビジネスを展開してきている。

翻って、JAの事業を考えてみよう。とたんに、心配になる読者も多いだろう。私もその一人だ。JAは、小規模の多くの農家組合員の集まりであるから、農家の生産物を集荷し、調整し、市場に出荷することで産地としての優位性を発揮する。JAの販売事業の強みであるが、小売店や生協、飲食店との直取引の拡大はしているものの、本格的な中抜きが進まないことで、JAの事業コストの削減、事業再編には至っていない。

一方で、大規模農家は直取引に流れる傾向が強く、一部にはJAから離れる動きもある。JAは、小規模農家・組合員のために、生産資材を予約注文し、共同購入のメリットを発揮、低価格での仕入れ、共同配送による輸送コスト削減というメリットを発揮してきた。しかし、機能や役割は変わらず、組合員農家へのメリット提供は難しく、JAのコスト削減も難しい状況だ。

一部の生産資材や飼料などの物流は変わり、JAの事業も変化してきたとはいえ、他業界のような流通革命やIT革命の流れに乗って、割り切った中抜き、コスト削減ができない。さらに、それぞれのJAは資材倉庫をもち、在庫を抱える、昭和の時代の経済事業が続き、事業収支をさらに悪化させている。

いまの時代に、購買事業のための倉庫をもち、在庫を抱える事業は思い切って改革すべきで、連合組織のリーダーシップとともに、JA間の共同・協力など、あの手この手で急ぎ実践したい。JAの経済事業は限界点にある。県や全国組織の責任は小さくない。しかし、JAには時間がない。

直売所を足場に、農家と消費者の直販システムを

ファーマーズマーケットのような農産物直売事業は、JAにとっての中抜きの事業である。生産者と消費者が直接、農産物や加工品などの売買を行うという意味では、もっと事業の可能性を追求してほしい。というのは、物の売買だけに終わっていて、もっともJAらしい事業として、生産者のものづくり情報や得意な技術などの情報の伝達、消費者との交流などでも、中抜きの良さや特徴を活かし、双方のメリットを追求したい。

また、農家が生産する安心・安全な農産物や加工品を、直接に消費者にお届けする「ダイレクト便」も、事業化したいテーマである。安心で安全な農産物を必要とする交通弱者でもある高齢者、乳幼児を抱えるなどのハンディをもつお母さん、勤めに出ている女性たちのニーズは強い。このほか、地元の会社・行政・病院などで働く人たち、昼間はファーマーズマーケットを利用できない人たちへの対応は、知恵を絞り、実現したい課題である。それは、地域の農業振興を後押しする力にもなるはずだ。

アメリカでは、CSA運動(Community Supported Agriculture)が広がっており、生産者の農業を守る、野菜等の定期配送、援農交流、生産費保証システムなど、消費者と農業者の産直運動である。私もワシントン州シアトル近郊で農家を訪問し、この運動の可能性を確信している。この運動をわが国で取り組もうとすれば、ある一定の地域内において、JAのような組織の存在は欠かせない。消費者とのネットワークの接続、仲介・運送、決済などのシステムサポートと管理機能がポイントだからだ。

また、小さな倉庫・ロッカー事業(コインロッカーの設置、そこに注文商品を入れて、注文者は帰宅時に立ち寄って受け取る)もアメリカでは定着しており、参考になる。もちろん、注文者が、帰宅時に特定の農家に寄って受け取ることだって考えられるし、近くのコンビニエンスストアを活用する方法もある。受注や決済へのはスマホで、口座はJAに、という方法は、そう難しい話ではない。JA直売所は、職員の知恵と最新のデジタルが活躍する先端ビジネスであってほしい。

こうした話に対しては、それは難しい、人やコストがかかる、などのネガティブな意見もあろう。しかし、関係する人たちの立場で、プラス面を探してみれば、JAとして実践への意欲は高まるはずだ。

本コラムに関連して、ご質問、ご確認などがございましたら、お問い合わせフォーム(https://www.jacom.or.jp/contact/)より、『コラム名』を添えてご連絡ください。コラム内又はメールでお答えします。

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