コメの市場があるメリットとは?【熊野孝文・米マーケット情報】2023年7月11日
クリスタルライスは7月14日にFAX取引会を開催する。この取引会では7月中渡し条件や8月上旬渡し条件で宮崎県の早期新米が売り物としてメニューにさらされることになっている。
売り唱え価格や数量は直前にならないとわからないが、先週現在では大雨の影響もなく例年より若干早めに収穫作業が始まると予想されており、大きなアクシデントがない限り14日の売りメニューに早期新米の売りものが出るため、5年産米の相場水準としてこの成約価格が注目されている。
クリスタルライスの取引会では、こうした収穫直前の九州の早期米以外に千葉のふさおとめやふさこがねといった関東の早期米、さらには10月末渡し条件で秋田県産あきたこまちも事例的に取引される。ただ、こうした先渡し条件の取引に限らず、現物での成約価格も公表されない。
今年9月にも立ち上げられる財団法人流通経済研究所が主導する現物市場「みらい米市場」は、事業計画書の中で価格相場情報の提供について「新たなコメの価格指標・価格相場を構築することを目指し、コメ市場の取引データ等から、相場等の分析情報を提供する」とし、その検討の方向性について①生産者による再生産が可能な価格を考慮する必要がある②検討にあたっては、業界関係者を集めたワーキング・グループを作成し、議論を行い、ロジックなどを確定する③取扱量が少ない中で指標をどう作るのか検討を行う(大きなロットでの取引データを伝票電子化などを通じて提供いただくことも検討)
公表方法については、①一定期間の取引総量②一定期間の取引価格帯(高値・中値・安値)③品質・産地・品種・生産者属性別の参考相場表としている。
市場で売り買いされるコメの価格に再生産が可能な価格を考慮するとは一体どういうことなのか? 市場取引は売り手、買い手がイーブンな立場で取引される場であり、生産コストを考慮するのは売りに出すと時に売り手が考慮すれば良いだけの話で、成約する価格とは別物で、市場運営者が「考慮」する必要はない。また、公表の方法も随時価格ではなく、一定期間の価格情報であれば市場参加者にとってはメリットがない。こうした疑問は市場運営者の立ち位置の違いによると言ってしまえばそれまでだが、市場にはその業界全体や社会に与えるもっと大きな役割があるはずである。そういった問題意識から一般財団法人農政調査委員会は「農産物市場問題研究会」を今月から公開の場で開催することにした。
研究会発足の趣意書には「食の外部化、国際化のもとで、コメ等の穀物、野菜等の生鮮食料品、畜産物の流通が大きく変貌している。そのもとで市場経由率の低下等、物流面での『市場』の役割・機能も変化しているが、透明で公正な価格形成やこれに加えて需給調整の場としての『市場』の役割は依然として大きい。そこで、まず、消費・流通の変化の下で市場経由率が低下している生鮮食料品・畜産物の『市場』と価格形成の役割を検討する。一方、重要な国内生産物であるコメは、市場と価格形成の場が存在しない。そのためにコメには透明で公正な価格形成システムがなく、指標価格が存在しないことによる様々な弊害(卸・小売での価格と生産者手取りの乖離、リスクヘッジ等)が指摘されている。しかし、海外ではコメ、小麦、大豆、トウモロコシ等穀物取引・価格形成は、現物・先渡し・先物の各市場が併存している。各市場の役割と機能を分担することによって、スムーズな流通と透明で公平な価格形成を実現している。
コメ産業の未来は、コメ、コメ加工品の輸出拡大にある。国際的なコメ市場もアメリカ、豪州、中国、ベトナム、タイ等の環太平洋地域での一世帯的市場化と競争時代に突入した。将来を見据えて、コメの市場も現物・先渡し・先物市場の連携により、コメの流通・価格形成実現の在り方及びジャポニカ米市場の国際的なセンター化の可能性についても議論・検討する」としている。
市場研究会はすべて公開で誰でも参加できる。日時や場所等は農政調査委員会のホームページに掲載予定。
【熊野孝文・米マーケット情報】は、今後随時掲載します。
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