コメの市場があるメリットとは?(2)【熊野孝文・米マーケット情報】2023年7月18日
7月14日に開催されたクリスタルのFAX取引は、ある程度予想されてはいたが上場数量が前回の半分程度にとどまった。特に低価格のいわゆるBランクの売り物が減少、売り唱え価格も上昇した。具体的には上場数量は45産地銘柄2万9030俵で、前回に比べ55%、昨年同期に比べても63%の水準にとどまっている。売り物が薄くなっているのは端境期特有の現象だが、今年の場合、価格の安いコメのひっ迫感が強く、検査米以外ではくず米を篩って主食用増量原料として使用される中米が60キロ当たり1万円を超えている。検査米ではクリスタルの売り唱え価格で1万3000円以下の売り物はなくなっている。
表は、クリスタルライスの取引会で売り物として出てきた主要銘柄の売り唱え価格だが、これで明らかなように銘柄間格差が急速に縮小している。コメの場合、需給がタイト化すると銘柄間格差が縮小する傾向にあり、需給状況を判断するうえで重要な要素になっている。
個々の産地銘柄の売り唱え価格をみると、魚沼コシヒカリの中には安いもので1万5,500円というものもある。価格の高い高級銘柄米は売れ行き不振が伝えられているが、ここまで安値で仕切ってくるところを見ると在庫負担が重荷になっていることが伺える。首都圏では5キロ1980円の特売品もお目見えするようになっている。また、新潟コシヒカリの売り唱え価格も安いものは1万4,100円になっている。これまで新潟コシヒカリは日本の銘柄米のプライスリーダー的な役割を果たしていたが、そうした役割を果たせなくなりつつある。その一方で代表的Bランク米あさひの夢の売り唱え価格は1万3,100円~1万3,600円で関東コシヒカリと変わらない水準になっている。コロナ明けで外食需要が戻り、業務用米の引き合いが旺盛になっている。
注目の5年産米の売り物は、宮崎コシヒカリが7月31日までの受け渡し条件で330俵、8月1日から8月10日までの受け渡し条件で880俵の売り物が出たが、価格は空欄になっている。市場関係者によると産地側は最も早いものは昨年より1俵500円高い1万5000円希望しているというが、新潟コシヒカリより高値になってしまうので抵抗が強い。
端境期に開催されたクリスタルライスのFAX取引会の概要を示したが、現在の需給状況を反映して裾もの高になっていることが伺える。こうしたことがわかるだけでも市場の価値があるのだが、残念ながら先渡し条件で取引される5年産米の価格はわからない。これでは売り手買い手にとってメリットのある市場とはいえない。少なくとも年内までの受け渡し条件で主要銘柄の5年産の売り唱え価格、買い唱え価格がわかれば、生産者にとっても買い手の卸にとっても大きなメリットがあるはずである。また、等級格付けがなされていない裾ものも品位データにより取引が出来れば売り手、買い手にとってメリットがある。市場による取引は工夫次第ではコメ業界に大きなメリットを与えられる。
農政調査員会では、コメ市場の可能性について「今後の米取引、価格形成をめぐって」というテーマで8月4日午後2時から千代田区紀尾井町の日本農業研究所で公開セミナーを開催する。講演者は前全米工理事長の中島良一氏が席上で取引されている低品位米の画像取引について、日本穀物検定協会の塩川理事長がコメの市場について講演する。参加費は1人2000円。
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