新規顧客より組合員重視、「5:1の法則」を実践しよう!【JAまるごと相談室・伊藤喜代次】2023年7月25日
組合員の利用実態で「違い」を把握しよう!
JAは、組合員という同じ地域社会に生活する利用者を組織している事業体である。組合員のJAとの事業取引の実情やお付き合いの度合いはさまざまだが、事業・経営の基礎的な存在である。
以前から、本コラムで書いてきたように、組合員と一口に言っても、多くの事業取引のある組合員もいれば、ほとんど事業取引のない組合員もいる。この違いは、きわめて大きい。
ところが、JAの組合員への向き合い方、事業対応は、すべてにおいて組合員に平等、対等であるべきと考えてきた。生産資材価格、手数料率、貸出金利などでの格差をつけることなく、決算時の利用高配当だけである。JAによっては、お中元とお歳暮を贈るところもあるが・・・。
しかしながら、最近では、利用金額や利用度の高い組合員、とくに農業経営を行っている組合員には、営農指導員の訪問回数、指導内容、生産資材の大口価格などで、他との違いを明確にしているJAもある。さらに、出荷数量、販売高、生産資材の利用高などの数値をもとに、手数料率の変更、貸出金利の弾力化を行うJAもある。
私がコンサルJAで取り組んだのは、利用実態に応じて、弾力的な価格対応の「幅」を決めた。この対応なしでは、大口農家のJA離脱が加速する、と理事会で説明し、了承を得た。対象農家には、その弾力化の方針を伝えておく。この対応だけで、対象の農家は、事業利用を増やしてくれる。この農業経営の成長も大きい。この農家1件の利用金額が、小さな農家の70戸分の金額に相当した、と記憶している。
JAの前向きな対応姿勢には、利用の多い組合員は、それに応えてくれるのである。事業取引内容の「違い」を見きわめ、どんな個別対応が必要かを、他の組合員への配慮を考えながら、何を優先すべきかを常に検討する姿勢で業務に当たりたい。
新規取引を重視した方針を見直す「5:1の法則」
現在、使える経営資源は限られている。人、カネ、時間などを考えれば、結果に結びつきやすい方針と方法の選択が必要である。
ところが、JAの事業推進活動は、利用が少ない組合員はさっさとあきらめ、地域住民を対象に、新規契約獲得の推進活動に力を入れる傾向がある。金融・共済事業の渉外活動は、その典型である。しかし、こうした方針転換は、職員に大きな負荷がかかるだけで、思ったほどの実績に結びつかないケースが多い。それに加え、困ったことに、JAの職員がもっとも苦手で、新規獲得推進の訪問は不評で、若い職員の退職を誘発する。
ここで、JAに関係するビジネスの「法則」を紹介したい。「5:1の法則」である。新規顧客の獲得のためのトータル・コストは、利用の少ない既存顧客の再利用のためのコストの5倍かかる、というものだ。新規顧客の獲得費用が5倍なら、まずは、既存顧客で利用の少ない顧客に焦点を絞り、優先してアプローチする方が有効で、成果もあがる。これは、マーケティングの大家でもあるP・コトラーも著書の中で強調している。
JAの場合は、新規取引先での契約獲得にかかるコストがどのくらいか。断られたり、不在だった場合の訪問軒数に関する費用も含め、総費用を成約件数1件当たりで計算してみると理解できよう。面倒なら、人件費だけでもいいから、一度、計算してもらいたい。
組合員に近づき、寄り添う姿勢のないJAは危い!
私は、新規の取引先の獲得にかかる費用、時間を考えれば、JAの組合員で、事業利用は少ないが、家族構成、農業経営規模などをもとに、訪問計画は容易に作成できる。そこで、まずは、「営業なし」の訪問活動を実施するというもの。
JAと取引のないお宅訪問は、職員にはプレッシャーである。「JAといいますが・・・」とゼロから説明しなければならない。玄関ドアが開かない場合も少なくない。
しかし、出資してもらっている組合員宅はどうか。「組合員のお宅訪問活動を行っています」といえば、玄関のドアは開く。その場で、営業したら嫌われる。会話の内容は、最近のJAの話題や評判の良い施設などの紹介でもいい。支店に足を運んでもらう工夫をする。臨機応変な対応ができれば、来店してくれる組合員もいるし、事業取引につながる可能性も生まれる。
私は、「細くても赤い糸で繋がっている組合員へのアプローチ」を重視しよう、ほったらかしにしていたら、組合員からほったらかしにされる、と役職員に言ってきた。そして、新規の取引獲得よりも、組合員との関係性の復活重視を考え、事業戦略の再構築に取り組んだ。これも、「5:1の法則」を念頭においたマーケティング戦略である。
最近は、支店の職員が「組合員の家も顔もわからない人が多い」という。出かけて行かなければわからない。組合員に近づく努力もなしに、事業が伸びるわけもない。
ちなみに、「5:1の法則」に関連して、「5:25の法則」というのがある。顧客はメイン店舗を変更(浮気)する場合がある。そのような顧客を5%少なくするだけで、利益は25%改善する、という法則。組合員にこだわり続けることは、収益性をも安定する。
JAにとって「組合員は最高の理解者であり、パートナーである」。手抜きをせずに、常に組合員に寄り添う工夫と努力を、ぜひ実践してほしい。
◇
本コラムに関連して、ご質問、ご確認などがございましたら、お問い合わせフォーム(https://www.jacom.or.jp/contact/)より、『コラム名』を添えてご連絡ください。コラム内又はメールでお答えします。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(123) -改正食料・農業・農村基本法(9)-2024年12月21日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践 (40) 【防除学習帖】第279回2024年12月21日
-
農薬の正しい使い方(13)【今さら聞けない営農情報】第279回2024年12月21日
-
【2024年を振り返る】揺れた国の基 食と農を憂う(2)あってはならぬ 米騒動 JA松本ハイランド組合長 田中均氏2024年12月20日
-
【2025年本紙新年号】石破総理インタビュー 元日に掲載 「どうする? この国の進路」2024年12月20日
-
24年産米 11月相対取引価格 60kg2万3961円 前年同月比+57%2024年12月20日
-
鳥インフルエンザ 鹿児島県で今シーズン国内15例目2024年12月20日
-
【浜矩子が斬る! 日本経済】「稼ぐ力」の本当の意味 「もうける」は後の方2024年12月20日
-
(415)年齢差の認識【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年12月20日
-
11月の消費者物価指数 生鮮食品の高騰続く2024年12月20日
-
鳥インフル 英サフォーク州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年12月20日
-
カレーパン販売個数でギネス世界記録に挑戦 協同組合ネット北海道2024年12月20日
-
【農協時論】農協の責務―組合員の声拾う事業運営をぜひ 元JA富里市常務理事 仲野隆三氏2024年12月20日
-
農林中金がバローホールディングスとポジティブ・インパクト・ファイナンスの契約締結2024年12月20日
-
「全農みんなの子ども料理教室」目黒区で開催 JA全農2024年12月20日
-
国際協同組合年目前 生協コラボInstagramキャンペーン開始 パルシステム神奈川2024年12月20日
-
「防災・災害に関する全国都道府県別意識調査2024」こくみん共済 coop〈全労済〉2024年12月20日
-
もったいないから生まれた「本鶏だし」発売から7か月で販売数2万8000パック突破 エスビー食品2024年12月20日
-
800m離れた場所の温度がわかる 中継機能搭載「ワイヤレス温度計」発売 シンワ測定2024年12月20日
-
「キユーピーパスタソース総選挙」1位は「あえるパスタソース たらこ」2024年12月20日