コメの市場があるメリットとは?(3)【熊野孝文・米マーケット情報】2023年7月26日
この時期になると米穀業者の任意組織が席上取引会で収穫前の新米を取引することがある。先週、成田市で関東近県の集荷業者や卸、大手小売が参集して取引会が行われ、およそ2,200俵が成約した。成約した5年産米の価格(置場、1等、税別)は、千葉ふさこがね1万2,650円、千葉コシヒカリ1万3,000円、埼玉あきたこまち1万2,650円、埼玉雑品種未検1万2,300円、茨城あきたこまち1万3,000円、茨城コシヒカリ1万3,000円。この他、くず米が12トン、キロ95円で成約している。
成約価格に対する周囲の反応は「想定された価格よりやや安い」という見方が多いが、これは5年産米が全国的に豊作基調で、収穫期が早まると予想されることから買い手の卸等が高値追いしない姿勢に転じたことが大きい。新米の取引会は8月17日に全国の米穀業者が千葉市に集まり、現物や年内渡し条件で新米が取引され、この席で5年産早期米の相場水準が確定するものと予想される。
任意組織の米穀業者の取引会は歴史があり、食管法により自由にコメの売り買いが出来なかった昭和40年代から行われていた。東京では日暮里駅近くの中華料理店で関東地区の集荷業者や仲介業者、玄米卸等が集まり席上取引会を行っていた。日暮里駅近くで行っていたのには理由があり、日暮里駅が貨物ターミナルになっており、ここでコメの受け渡しが行われたことにある。貨物列車からトラック輸送に代わり、日暮里で受け渡しが行われることはなくなったが、席上取引会は月一回日暮里で行うというのが習慣になった。その後、参加者が増加、ホテルの会議室を借りて情報交換会と席上取引会を行うようになった。
席上取引のやり方はコの字型にテーブルを組み、中央にホワイトボードを置き、指名された業者が場立ちを務め、参加者(おおよそ20名程度)に売り希望、買い希望の指値の声をあげるように求め、声が上がった順から売り玉の場合、売人、産地銘柄、等級、受け渡し条件、価格をボードに買いて、買い声を募る。たまに売り価格が出た途端に買いが入り即決で成約する場合もあるが、大方は売人の売り希望対して買い人は安値を指値する。その価格差は1俵100円から200円程度で、売人も買い人も相場の位所はわかっているので相場より極端に違う指値をすることはない。売り希望、買い希望が出たところで場立ちが売り人、買い人に歩み寄りを求めて成約に結び付ける。取引会は税別で行われ、取引終了後に手数料として1俵20円が運営者に支払われ、会場代金等運営費に充てられる。この任意組織で収穫前の新米を先渡し条件で取引するようになったのはそれほど古い話ではない。
先渡し条件での取引は、過去に売買要領を決めて行うため文書まで作成していたが、実質的に取引が行われるようになるには時間を要した。それは先渡し条件の取引が確実に実施されるには売人が期日までに確実に新米を集荷して受け渡しできるということはもちろん買い人が契約を履行するということが大前提になっているからである。仲間業者の取引はこうした契約の履行が間違いないという担保があって初めて成立する。この任意組織のメンバーは若手が多いが、長年の取引でお互いのことは良く知っており、それぞれの信頼によって先渡し取引が成立している。もちろん過去にはトラブルもあったが、そうしたトラブルを乗り越えてきたからこそこうした取引が出来るようになったともいえる。
ここまでコメの取引においてもっとも初歩的というべき席上取引会での先渡し条件の取引に触れたが、これが成立するためには何よりも参加者の信用が欠かせないということで、当然のように思えるが、それが出来るようになるまでには時間がかかる。クリスタルライスは買い人の多くが全米販傘下の卸で、代金支払いの食信協で与信が担保されているので問題はないが、員外社はクリスタルライスの審査が必要になるほか、売人はクリスタルと基本契約を結ぶ必要がある。コメの市場では、現物市場で参加者にメリットを感じるようにするためには先渡し条件の取引ができるようにしなければならないが、市場の規模が大きくなればなるほど参加者の要件は極めて重要になり、売買要領もしっかりとした約定が必要になる。
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