コメの市場があるメリットとは?(5)【熊野孝文・米マーケット情報】2023年8月8日
一般財団法人農政調査委員会は8月4日、千代田区紀尾井町の日本農業研究所で第2回農産物市場問題研究会を開催した。第2回目は「今後のコメ取引、価格形成をめぐって」というテーマで、全国米穀工業協同組合(略称全米工)の前理事長中島良一氏((株)福岡農産会長)と日本穀物検定協会の塩川白良理事長が講師を務めた。コメの価格形成をテーマにした会合は農水省でも開催されており、こちらは8月2日に「コメの将来価格に関する実務者勉強会」の第1回目を開催した。実務者勉強会では、今秋、コメの現物市場を立ち上げる公益財団法人流通経済研究所が「みらい米市場と価格相場について」、(株)ぶった農産が「農業者起点の新たな現物市場の創設」についてそれぞれ講演したのに続き、三井物産(株)が「小麦の先物取引」について講演した。
農水省がコメの将来価格の勉強会で小麦の先物取引を取り上げるのはコメ、麦、大豆、トウモロコシといった主要穀物の取引が出来る「農産物総合取引所」構想でもあるのかと勘ぐってしまうが、開催趣旨には「実需者が安定した価格・数量の取引を要望している中、価格を含めた事前契約の拡大等が課題になっており、コメの将来価格がわかれば、事前契約取引の締結に際して価格決定の一助となるほか、生産者が需要に応じた生産を行えるようになることが期待される。このため、コメの現物取引を補完する観点から、将来価格の動向を把握するための方法について、生産者、集荷業者、卸業者及び実需者の目線で勉強するための場を設ける」としており、あくまでもコメの将来価格の形成をどうするのかにあるようだ。
コメを産業化するためのインフラとしてコメの市場が必要で、その市場とは「現物プラス先渡し市場」と「先物清算市場」の二つであるとコメの先物市場上場申請の際に繰り返し堂島取が主張してきた。こうした取引所側の至極まっとうな主張を無視して本上場を非認可しておいて、将来価格の勉強会もないものだが、やはり将来価格がわからないというおかしな状態を続けるのは自由貿易を掲げる日本として恥ずべきだという機運が出てきたのかもしれない。先物清算市場については現物市場とは違った大きな機能があるので回を改めて触れることにして、進化した現物取引である画像取引について全米工の中島前理事長が講演したのでそのことについてまず触れたい。
中島前理事長は2019年5月に全米工理事長に就任、今年5月まで4年間務めた。その間の最大の出来事はコロナ禍で、これに組合としてどう対応して乗り切るかが最大の懸案事項であった。2020年からコロナ禍で席上取引会・情報交換会が中止になり、総会も書面総会になってしまった。全米工は取引会の手数料を組合運営費に充当しており、取引会の中止は組合存続にも関わる重大問題であったが、会場に来なくても取引が出来るようにオンライン取引を可能にし、サンプルを穀粒判別で画像解析し、画像とデータをオンライン上に表示して取引できるようにした。そうした検査米ではない低品位米(特定米穀)の取引を最新の機器を活用してどう行うのか画像やデータを示しながら解説した。終わりに特定米穀の課題と取引について以下のように述べた。
〇発生量が50万トン前後の特定米穀であり、組合員平均で4,000トン台の取扱数量だけに不動玉がどの程度出てくるのかが最大の課題。
〇全米工組合員は地域トップクラスの事業者も多く、主食米から加工原料用米まで幅広く取り扱っており、特定米穀はもちろん、加工用米、米粉用米、輸出米、飼料米等複合的に組み合わせて事業継続の体制を整えようとしている。後継者も育っている企業も多く、倉庫業や川下事業も組み合わせ、企業としての体制を強化しているところも多くみられる。
〇上記の背景から特定米穀無選別玄米の需給は基本的にはタイトであり、米菓・味噌・焼酎用クラスはユーザーに結びついているケースが多く、席上に出品されることは少ない。
〇中米クラスと上白米は席上取引に出てくることも多いが、これらは主食米低価格品の需給次第のところがあり、3年産から4年産にかけての生産調整深堀の影響を受けているうちは不動玉は少なくならざるを得ない。
〇中米については、篩下米全体発生量としては50万トンの6割程度30万トン前後あるわけなので、画像と米粒判別機の規格を整備し、市場に出せる可能性がないわけではない。
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