【浅野純次・読書の楽しみ】第89回2023年8月18日
◎鈴木宣弘・原作『日本の食の危機』(方丈社、1650円)
飢饉が迫る、日本の食は質も量も崖っ縁、日本は世界の危険な食材の最終処分場・・・などと言われると手に取らずにはいられないかもしれません。各8ページのマンガと鈴木教授の講義で九つの章が構成されています。
コロナによる物流網の停滞、ウクライナ戦争、異常気象、それに中国の爆買いの四つの危機により世界食糧危機が目前であり、食糧自給率が実質10%の日本はほんとに飢餓の心配をする必要があるという序章からして気楽には読めません。
繰り返される論点の一つは食の安全です。日本は世界一食材の安全な国という思い込みは多くの人々が抱いているのではないかと思いますが、日本の行政は米国政府や欧米企業の言い分になぜこれほど唯々諾々と従ってしまうのか。鈴木教授の危機感はとても説得力があります(思わず立腹してしまうかも)。
飼料の値上がりや行政の無責任さによってまさに危機的状況にあるという酪農の章も多くの人に読んでほしい内容です。
個人的には、ノンGM表示が4月からできなくなったこと、日本だけがカレント・アクセスを不合理にも守っていることなど勉強になりました。欲をいえばマンガがもう少し充実していれば、というところでしょうか。
◎岡田暁生・片山杜秀『ごまかさないクラシック音楽』(新潮選書、2090円)
この本を400字で語ろうなどムリな相談でしょう。何しろ奥深いクラシック音楽を、博学多才な共著者が20時間以上、語り合ったというのですから、内容の充実度は空前絶後と言っていいかもしれません。
序章の「バッハ以前の1000年間」からして異色です。クラシックはバッハから、というのは一般的見方ですが、古楽とクラシックはどう違うのか考えることでこの時代の特徴が浮き彫りになります。
バッハの位置づけと時代、ベートーヴェンの偉大さと聞き手の受け止め方(年末の第九など)、不安と悦楽のモーツァルト、ロマン派、現代音楽などそれぞれに面白い。対談形式なので、互いに触発されたり掛け合い風だったり。惜しくも削られてしまった対話の中味も読みたくなります。
本書の魅力はクラシック音楽の表と裏を知るだけでなく、時代の読み方という角度からの貴重な内容にあります。クラシック好きはもとより、あまり聞かないという人にもこのような西洋史はぜひ知っておきたいですね。
◎檜山良昭『江戸の発明 現代の常識』(東京新聞、1430円)
江戸時代というと停滞の世という感じをもつ人も多いかもしれませんが、さにあらず。商人や手工業者たちが知恵を絞り、消費者も活発な活動をして活気にあふれた街を生み出していました。
何せ世界屈指の消費都市であり、教育水準も高かった江戸で、さまざまなビジネスや商品、サービスが生まれたことは想像に難くありません。
私が一番気に入ったのは、「伊勢屋の切手売り」です。高級かつお節で成功した伊勢屋は、かつお節といつでも交換できる切手、つまり商品券を売り出します。かつお節をたくさん贈られた人は切手を換金してもよし、半年後にかつお節を入手するもよしで、まことに重宝したようです。
あるいは百円均一ショップの江戸版である三十八文店。「どれも三十八文だよ」の香具師(やし)の声が聞こえてくるようです。江戸のファミレス、その他たくさん。知恵を絞ればいつの時代も需要は掘り起こせます。
重要な記事
最新の記事
-
【令和6年度 鳥インフルエンザまとめ】2025年1月22日
-
【特殊報】チャ、植木類、果樹類にチュウゴクアミガサハゴロモ 農業被害を初めて確認 東京都2025年1月22日
-
【新年特集】2025国際協同組合年座談会「協同組合が築く持続可能な社会」(1)どうする?この国の進路2025年1月22日
-
【新年特集】2025国際協同組合年座談会「協同組合が築く持続可能な社会」(2) どうする?この国の進路2025年1月22日
-
【新年特集】2025国際協同組合年座談会「協同組合が築く持続可能な社会」(3) どうする?この国の進路2025年1月22日
-
【新年特集】2025国際協同組合年座談会「協同組合が築く持続可能な社会」(4) どうする?この国の進路2025年1月22日
-
禍禍(まがまが)しいMAGA【小松泰信・地方の眼力】2025年1月22日
-
鳥インフル 英イースト・サセックス州など4州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年1月22日
-
【JAトップ提言2025】消費者巻き込み前進を JAぎふ組合長 岩佐哲司氏2025年1月22日
-
【JAトップ提言2025】米も「三方よし」精神で JAグリーン近江組合長 大林 茂松氏2025年1月22日
-
京都府産食材にこだわった新メニュー、みのりカフェ京都ポルタ店がリニューアル JA全農京都2025年1月22日
-
ポンカンの出荷が最盛を迎える JA本渡五和2025年1月22日
-
【地域を診る】地域再生は資金循環策が筋 新たな発想での世代間、産業間の共同 京都橘大学教授 岡田知弘氏2025年1月22日
-
「全日本卓球選手権大会」開幕「ニッポンの食」で応援 JA全農2025年1月22日
-
焼き芋ブームの火付け役・茨城県行方市で初の「焼き芋サミット」2025年1月22日
-
農のあるくらし日野のエリアマネジメント「令和6年度現地研修会」開催2025年1月22日
-
1月の「ショートケーキの日」岐阜県産いちご「華かがり」登場 カフェコムサ2025年1月22日
-
「知識を育て、未来を耕す」自社メディア『そだてる。』運用開始 唐沢農機サービス2025年1月22日
-
「埼玉県農商工連携フェア」2月5日に開催 埼玉県2025年1月22日
-
「エネルギー基本計画」案で政府へ意見 省エネと再エネで脱炭素加速を パルシステム連合会2025年1月22日