コメの市場があるメリットとは?(6)【熊野孝文・米マーケット情報】2023年8月22日
先週の木曜日、8月17日に千葉市のホテルで米穀業者の新米取引会が開催された。この新米取引会は千葉県の米穀業者で組織される千葉穀類連絡協議会が主催したもので、関東近県や北陸、東北からも参加者を得て開催された。取引会では、場立ちを3名立て売り物、買い物を募って競り合わせながら成約に結び付けるもので、席上取引会の原型ともいえる手法で売買がなされた。
この取引会で成約した銘柄と価格は、千葉ふさこがね1万2600円~1万2700円(1等、産地置場、税別以下同)、千葉ふさおとめ1万2900円、千葉粒すけ1万2800円、千葉コシヒカリ1万3300円~1万3400円、茨城あきたこまち1万3250円(持込み条件)、茨城コシヒカリ1万3300円というものであった。昨年の同じ時期に開催された新米取引会に比べると1俵当たり2500円から2800円と大幅に値上がりしている。また、事前に予想された価格よりも300円から500円高い価格で成約しており、取引会に参加していない周辺業者からも割高な成約価格になったと受け取られている。
こうした高値になった背景としては、第一にコロナ禍が収束、外食や中食向けの業務用米需要が盛り上がったことで、こうした業務用に向けられるコメがタイト化していることがあげられる。第二には全体需給が改善、農水省の需給見通しでも来年6月末の民間在庫が適正水準まで減るという見通しを示していることも上げ材料として捉えられている。
また、農協系統の集荷概算金や買取価格の値上げも大きく影響している。地元千葉の農協はふさこがね、ふさおとめの買取価格を昨年産に比べ2000円から2500円値上げして1万1800円から1万2000円(税込み)に設定したことから商系業者も対抗上値上げせざるを得ず、高唱えの要因になった。新米の品位に関しては、例年に比べ収穫時期が早まっており、すでに検査を受けた新米に関しては高温障害による品位が低下しているという声はなかったが、今後、集荷が本格化するコシヒカリの品位低下を懸念する見方もあったほか、新潟の業者からは水不足で一部では品位の低下が避けられないのではという見方もあった。
この新米取引会では特筆すべきことがあった。それはゲストとして(株)堂島商品取引所の会長や農政調査会の理事長、流通経済研究所の現物市場の設計責任者が訪れ、それぞれ自らの取り組みや方針を紹介したこと。
堂島取の重光会長からは有益な取引所として改革を進めており、堂島のコメ取引がデリバティブ発祥であるにもかかわらず各国の金融機関からはなぜ世界で3番目に生産量が多いコメの価格を日本から情報発信できないのかと言われている。日本からコメの価格を情報発信できるようにして当業者の皆さんのお役に立ちたいとした。
農政調査員会の吉田理事長は同会が農産物市場研究会やコメ産業懇話会と言ったセミナーを開催しており、そのスケジュールを示した資料を配布して当業者の参加を呼びかけたうえで、コメについて、コメの需要は恐ろしい勢いで減っており、500万トンを切る時期もそう遠くはない。コメに携わる企業は企業戦略を考え直した方が良い。このまま生産調整を続けていたら日本農業は崩壊する。それを回避するためにはEU型の直接支払い制度に転換してコメの持続生産を可能にし、コメ・コメ加工食品を海外に向け輸出することである。清酒業界は輸出に力を入れているが、生産量の30%を輸出しないと業界が成り立たない状況。輸出するためには価格変動のリスクを回避できる先物市場が必要で、指標価格がないというのは非常に大きな問題で、世界的には穀物の取引所がないのは日本だけでガラパゴス化している。世界の穀物は現物・先渡し市場と先物市場で需給調整を行っている。中国はすでに世界の3分の1の中粒種を輸出するまでになっており、その価格は大連商品取引所に上場されたジャポニカ種で決まっている。透明な価格形成をどう行っていくのかがコメ業界にとって大変重要な問題で、日本がコメの価格のイニシアティブを取って行けるようにしたいと述べた。
流通経済研究所の折笠主任研究員は、9月に立ち上げる計画の「みらい米市場」について既存のコメ市場との違いについてネット上で取引が出来ることで、近く具体的な組織形態や売買手法について公開説明会を開催する予定であるとした。
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