(347)インドのコメ輸出禁止と日本のコメ【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2023年9月1日
2023年7月20日にインドがコメ輸出を禁止してから40日ほどが経過しました。その後の流れを含め米国農務省がうまくまとめていますので、その内容を中心にご紹介したいと思います。
2023/24年度で見た場合、世界のコメ生産・消費量は年間5.2億トン(精米ベース)である。直近の見通しによれば、このうち輸出に回るのは5,290万トン(約1割)、これをまず押さえておきたい。
輸出の最大手はインドであり、昨年は2,050万トンを輸出した。7月20日まではこの勢いが継続するものと考えられ、米国農務省も輸出見通しを2,300万トンとしていたが、8月には400万トン引き下げている。世界市場における今期の輸出数量と割合を見ると、インド(1,900万トン、36%)、タイ(750万トン、14%)、ヴェトナム(730万トン、14%)、パキスタン(490万トン、9%)と、上位4か国で73%(昨年は75%)になる。簡単に言えば、インドの減少分を他の輸出上位国が獲得し、これらの合計では昨年とほぼ同様という訳だ。
インドのコメ輸出先は140か国以上だ。輸出されるコメの種類は、簡単に言えば、パーボイルド米、非バスマティ米、バスマティ米、破砕米、玄米、だが、玄米と白米、それも普段は白米の個別銘柄で日々の食生活を判断している多くの日本人にとっては、馴染みのない分類かもしれない。
インド政府の禁輸理由は非バスマティ米の国内需要を確保して価格高騰を防ぐためとしている。今年の1-5月にインドは960万トンのコメを輸出したが、そのうち300万トンが非バスマティ米である。インドから見た非バスマティ米の主要マーケットはアフリカ諸国である。例えば、5か月間に60万トン強を輸入したケニアでは50万トン強が非バスマティ米であり、ベニン、トーゴ、モザンビーク、マダガスカル、カメルーンなど、輸入数量が20~30万トン水準の国々も、大半が非バスマティ米である。
食料安全保障という観点から見た場合、アフリカの輸入国の多くは穀物自給が十分ではない。そのため、輸出国であるインドの禁輸措置で直接的な打撃を受ける。こうした事情を考慮してインド政府は一部の国とは個別に調整をしているようだ。また、輸入国側は、タイやヴェトナムなど、輸出余力のある生産国に輸入先をシフトしている。この結果、これらの国の輸出価格は急騰したことも各所で報道されている。
一方、FAO(国連食糧農業機関)のコメ価格指数を見ると、2014-16年を100とした場合、1-7月の平均で昨年の105.8が、今年は125.8である。昨年よりは2割高だが、これは世界全体の話である。例えばウルグアイのコメ輸出価格の引き合いは過去1か月でトン当たり35ドルから635ドルへ、タイとヴェトナムは125ドルから657ドルと644ドルへと急騰したことが伝えられている。
* *
有難いことにこうした世界状況の中で日本は良くも悪くも比較的落ち着いている。各地でコメを求めて人々が殺到したという話は聞かない。
最後に、日本のコメと小麦の全体像を食料需給表(令和3年度)から簡単に描くと以下のようになる。2021年のコメの生産量は823万トンであり、88万トンを輸入している。輸出は9万トン、国内消費は820万トンである。小麦の数字と比較してほしい。
(コメ) (小麦)
生産量 823万トン 110万トン
輸入量 88万トン 538万トン
供給計 911万トン 648万トン
国内需要量 820万トン 642万トン
輸出量 9万トン 0トン
需要計 829万トン 642万トン
数字が示すとおり、少なくとも今のところコメは需要量の大半を国内生産で賄えている。だからこそ、輸出国が禁輸措置を実施しても我々は日々の生活の中でそれほど食の確保に悩むことはない。この意味と現実をしっかりと理解しておく必要がある。
* *
自給率向上のために一人一人ができること、それは現実を具体的な数字で理解し、国産の農産物を意識して食べること、個人レベルではこれに尽きるのではないでしょうか。
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