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堕ちたブランドと共犯者【小松泰信・地方の眼力】2023年9月13日

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「人類史上最も愚かな事件」「鬼畜の所業」だそうだ。だからどうする、と問われたとき、その悪辣さを叩き潰すほどの重い決意に裏打ちされた姿勢が伴わない限り、臭いだけのセリフとなる。

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これぞまことのブラック企業

ジャニーズ事務所の創業者で元社長のジャニー喜多川(2019年死去。以下、喜多川と呼ぶ)による性加害問題を受け、同事務所は9月7日に東京都内で記者会見を開き、性加害の事実を認めて謝罪した。冒頭のセリフは、新社長となった東山紀之氏の発言である。

「サンデー毎日」(9月24日-10月1日号)で、森健氏(ジャーナリスト)は、「外部専門家による再発防止特別チーム」が8月29日に発表した調査報告書を読んで奇異に感じたのが、「事業規模と一致しない特殊な経営体制」としている。

具体的には、次の2点。

ひとつは、取締役会を開催しておらず、コンプライアンスなど基本的な社内規程が制定されていないというガバナンスの欠如。

もうひとつが、事業の根幹たるタレントの採用は明確な採用基準はなく、喜多川と振付師がその場で見て判断するだけで決定。合否を明示することもなく、契約書を締結することもなかった。

森氏は、「グループで年商1000億円以上とも伝えられ、芸能界に強大な影響力を持つ企業。にもかかわらず、個人商店のようなやり方が続けられてきた」としている。

毎日新聞(9月8日付)によれば、この記者会見で出た、メディアに、自社タレントの出演取りやめをちらつかせて報道圧力をかけたのではないかという質問に、東山氏は「うちの事務所が全て悪い」と発言。性加害の温床ともなった、退所したタレントを業界内で「干す」慣習や、競合男性アイドルグループのテレビ出演妨害も今後「しない」と明言した。

ということは、どれだけ嫌がらせをしていたのか、それ自体も看過できない問題である。ジャニーズのタレントたちは、現在の地位が他社(者)への組織的嫌がらせのおかげで手に入ったものであることを自覚すべきであろう。

「解体無き出直し」とは虫が良い

多くの地方紙の社説もこの問題を取り上げている。論調は「解体的出直しへの疑問」と「メディアの沈黙」に集約される。

信濃毎日新聞(9月9日付)は、「喜多川氏のめいに当たる藤島氏は、社長を辞めても代表権のある取締役にとどまる。自身が100%保有する株式も当面そのままだ。東山社長は喜多川氏に近いとされた古参の所属タレントでもある。事務所に都合のいい対応にならないか。名乗り出ていない被害者に無言の圧力をかけることになりはしないか」として、「解体的出直し」に懸念を示している。さらに、喜多川の最側近で、「ジャニーズの全てを知っている」とされる白波瀬傑(しらはせすぐる)氏(9月5日付で副社長辞任)が会見に欠席したことについても、「詳細を知る人物を隠したのではないか」と不信感を募らせる。

佐賀新聞(9月9日付・共同通信)は、「社名維持」の矛盾を鋭く衝く。社名は「タレントが培ってきたエネルギーやプライドの一つ」と、東山氏が述べたことに対して、「非道な性暴力の加害者の名を刻んだ社名を残すことに、社会的納得が得られると判断したなら、甘いと言うしかない。タレントやファンの意見ではなく、その名を聞くことで被害者がどんな痛みを感じるかに思いをはせるべきだ。この判断は国際的な人権擁護の流れにも反している」と容赦ない。

中国新聞(9月8日付)は、「ジャニーズの名称を存続させる判断には疑問を感じる向きも多かろう。アイドルになりたい少年の夢につけ込んだ性加害は1950年代以降、2010年代半ばまでの長きに及んだ。罪深い喜多川氏の名前を事務所に残すことで、被害者が引き続き苦しみ続けることになりはしないか」と記している。

新潟日報(9月9日付)も、「『普通の企業なら考えられない対応』と批判するスポンサー企業もある」ことを紹介している。

地に堕ちたブランドにしがみつき、解体することなく出直そうとする、真に虫のいい話である。

「メディアの沈黙」は禁

東京新聞Web(8月7日17時01分)は、国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会の専門家が8月4日、日本記者クラブで記者会見し、喜多川の性加害問題を巡り、関係者からの聞き取りに基づき、「事務所のタレント数百人が性的搾取と虐待に巻き込まれるという憂慮すべき疑惑が明らかになった。日本のメディア企業は数十年にわたり、不祥事のもみ消しに加担したと伝えられている」と批判したことを伝えている。

これを受け、琉球新報(9月12日付)は、「長年にわたって被害者が出続けたのは日本のメディアの沈黙が大きな要因だったことが、国際的にも認識された」とするとともに、9月7日の会見を受けて出されたNHKや民放各社のコメントや声明を不十分とし、「徹底した自己検証と、反省を踏まえた行動が必要だ」とする。

西日本新聞(9月9日付)は、「西日本新聞も問題意識を欠いていた。未成年者や男性に対する性加害への認識が不十分で、芸能スキャンダルと矮小化する視点があったことは否めない。人権感覚を磨き、報道の責任を果たしたい」と、反省の弁。加えて、「勇気を出して告発した被害者が誹謗中傷されることは断じて許されない。一芸能事務所の問題に終わらせず、日本社会の人権意識を底上げする契機とすべきだ」と訴えている。

買いませんジャニーズブランド

国連人権理事会作業部会の声明について松野博一官房長官は、8月7日の記者会見で「作業部会の見解は、国連や国連人権理事会としての見解ではなく、法的拘束力を有しない」「個別の被害は事案ごとに裁判等で判断され、個別事業者における事案は事業者で適切に対応されるべきものだ」とし、政府として被害者や事務所、芸能界やメディアの関係者を調査するつもりはないとの見解を示した。この程度の人権意識である限り、ジャニーズ問題さらに人権問題の解消への先行きは決して明るくない。

共同通信(9月12日11時48分配信)によれば、「いかなる人権侵害も許容することはできない」とする日本マクドナルドは9月12日、ジャニーズ事務所のタレントを起用した広告の契約期間が満了した後、契約を更新しない方針を表明した。第一三共ヘルスケアも所属タレントを起用した広告を当面見送る方針を示し、花王は広告や販促の中止を発表するなど、企業にはジャニーズと距離を置く動きが広がっている。ジャニーズブランドの不買運動の始まりである。

この堕ちたブランドと共依存の関係を続ける人と組織は、「人類史上最も愚かな事件」の共犯者となる。

「地方の眼力」なめんなよ

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