庭の草木での遊び【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第256回2023年9月14日
前回ちょっと触れた「ラベンダー」、この名前を初めて聞いたのが1972(昭47)年、当時小学生だった子どもといっしょに毎週楽しみに見たNHKの連続テレビドラマ「タイム・トラベラー」(原作:筒井康隆『時をかける少女』)でだった。ラベンダーの匂いを嗅ぐとタイムスリップすると言う話、どんな匂いなのだろうか、そもそもどんな花なのか、いつか確かめたいものだと思ったものだった。
そのうちあちこちで見られるようになり、とくに北海道のラベンダー畑が有名になってなじみが深くなってきたが、私が定年後一時期住んだ網走の家の庭にも植えてあった。仙台に帰ってくるとき、記念に一株持ってきて庭に植えたら見事に大きくなり、毎年初夏になるといい匂いを庭中にまき散らしてくれる。それに誘われてか、ミツバチをはじめさまざまな虫がくるが、とくに多いのがハナアブで、何十匹もわが物顔に飛び回る(都市化の進展のせいか温暖化のせいか、この頃は少なくなっているが)。
これを見て思い出すのは、山形の私の生家の庭にあったツツジである。樹高1.5m、枝葉の周り直径2m、幹の太さ直径20cmくらい、樹齢は200年以上と言われている大きなツツジが小さな池をはさんで2本あったが、春になると白い花をびっしりと咲かせて庭中を独特の匂いで充満させる。
それに誘われてミツバチ等々たくさんの虫が集まってくる。とくに目立つのがハナアブだ。身体がでかいからだ。しかもそれがどこにこんなにいたかと思うくらいたくさん飛び回る。その羽音がうるさくてしかたがない。人間に悪さをしないので安心だが、それにしてもやはり子どもは近づきにくい。花の蜜を吸いに来るのだ、蜜はすごく甘く、花の真ん中にあるのだなどと聞くと、その蜜をなめて見たくなる。それでハナアブを避けながら花を採り、その底をなめてみるが、全然甘くない。それでもこりずにまた花を採る。たまにちょっぴり甘く感じるときがある、そうすると大喜び、自慢する。みんなも真似するが、なかなか甘いのがない。
こうした当たり外れのないのがオシロイバナだ。近くの友だちの家の庭にあったのだが、その季節になると遊びに行き、花を採らせてもらい、なめながら吸ってみる。甘い。一瞬のうちになくなってしまうので、また別の花を採る。なぜか知らないがハナアブなどは集まって来ないので、安心して吸ったものだった。甘いものに餓えていた(戦中で砂糖は配給制でなかなか手に入らなかった)ころだからましてやおいしく感じたものだった。
こうした花や葉っぱ、それをみんなで採ってきてはままごとをした。
晴れた日、子どもたちの話がまとまるとまず一人が小屋に入っているわらむしろを引っ張り出してくる。農家だからむしろはたくさんあった。必要によっては各人の家にあるおもちゃや人形などを持ってくる。そしてむしろが家屋敷となり、だれがどういう役割をするかをみんなで決める。食事となると、みんなでさまざまな花や葉っぱを採ってくる。そのうちのあるものは皿や茶碗、包丁、まな板となり、あるものはご飯や魚、野菜になる。たまには水を汲んできて土をこね、だんごをつくったり、食べ物に擬したりもする。そしてみんなで食べ、あるいはお客さん役の子どもや人形にごちそうする(真似をするだけだが)。
しかし、ままごとは学校に入るまでのことだった。入った後そんなことをしていたら友だちから冷やかされ、ましてや女の子といっしょにままごとをしていたとなるとその冷やかしはさらにひどいものとなったからである。
ところで、今家から人形やおもちゃを持ってくると言ったが、私の子どものころは「積み木」やセルロイド・ブリキ製のおもちゃが売られるようになっており、それでも遊ぶようになっていた。人形についていえば、西洋人形やママー人形、キューピーさんなどが出回っていた。もちろんそれなりに高価なのですべての家で買えるわけではなかったが、私の妹はママー人形を買ってもらっていた。そうした人形をままごとに持ってきて、人形をお客さんにしてごちそうしてみたり、子どもにしてあやしたり、寝かせたり、おんぶしたりしていた。
一方、男の子は駄菓子屋から買ってくるバッタ(メンコ)や玉コロ(ビー玉)で、女の子はまりつきや綾取り、お弾きをして、群れて遊んだものだった(このことについては次回述べたい)。
このように私の子ども時代は新しい人工のおもちゃでも遊ぶようになっていたが、自然のものをおもちゃにして遊ぶのがまだ中心だった。
梅、李、桃、柿、柘榴、スグリ、サクランボ等々の家庭果樹、農家はもちろん農家以外の家庭でもそれらを庭や裏庭に植えていた。子どもはこうした果実の収穫などの手伝いをさせられたが、これも子どもたちの楽しみ、遊びだった。またその花も遊び道具にした。子どもは遊びを発見する天才であり、それを年下の子に伝えていった。
忘れていた。
泥んこ遊びもした。乾いた土に水を撒いて作った泥や雨の後の泥土で団子をつくつたり、山をつくったりして遊ぶのである。泥で服を汚したりするのでよく怒られたものだった(今のように洗濯機などない時代、これもやむを得ないのだが)。
砂遊び、今のように児童公園など整備されていない時代、しかも海や大きな川もない地帯なので、小学校のグランドの砂場に行ってということになるが。私の生家は小学校のすぐ近く、休みの日などよく行って遊んだものだった。
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