【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】種を守るのは安全保障の要2023年9月28日
食料は命の源だが、その源は種である。
野菜の自給率は8割というが、その種は9割が海外の圃場で種採りしたものだ。コロナ禍でも大騒ぎになったが、種が入らなくなれば野菜も8%しか自給できない。たとえ自家採種してもF1(一代雑種)だから、採取した種から同じ作物は作れない。だから、地域の在来種、固定種を守り、地域で循環できる仕組みを作っておかなければいけないとの認識が高まっている。
海外から食料や生産資材の輸入が滞りつつある今、飼料に加えて、種と肥料も考慮して、直近の農水省データから実質的自給率を試算すると、2022年の日本の食料自給率(カロリーベース)は37.6%だが、これに肥料の輸入が止まって収量が半分になることを想定すると22%まで落ちる。同じく、種が止まると想定すると9.2%だ。
この試算は、コメの種も海外企業に握られてしまうという最悪の想定ではある。だが、それはもう進んでいる。モンサント・バイエルなどの世界のグローバル種子農薬企業が、世界中の種を自分のものにし、そこから買わなければ生産できないようにしようとしたが、世界中の農家、市民の猛反発を受けて苦しくなった。苦しくなると「何でもいうことを聞く日本でもうけよう」となる。
そこで、まず種子法廃止でコメ・麦・大豆の公共の種事業をやめさせ、その種は企業に譲渡せよ、かつ、自家採種されると次から売れなくなるからと自家採種を制限せよ、と種苗法改定まで行われた。「シャインマスカットの苗が中国・韓国にとられたから、日本の種を守れ」が口実だったことは明白だ。実質自給率9%に向かってはいけない。種の自給は生命線である。
こうした中、24年ぶりの食料・農業・農村基本法の見直しが行われることになったのは、世界情勢の悪化を踏まえ、食料や生産資材の輸入依存を改善し、生産資材高騰下での農家の苦境を救い、国民の命を守るために食料自給率向上にいよいよ本腰を入れる「決意表明」となるものと期待していた。
しかし、「答申」本文には「食料自給率」という言葉自体がなく、「基本計画」の項目で「指標の1つ」と位置付けを後退させた。もちろん、「自給率向上」とは何処にも、一言も書かれていない。種の重要性とそれを守る方向性についても一切言及がない。
「市場原理主義」(貿易が止まったときに命を守る安全保障のコストが考慮されていない)では、いざというときの国民の命は守れないことも明白になったのではないか。日本の多くの農山漁村が原野に戻り、地域社会と文化も消え、食料自給率はさらに低下し、不測の事態には超過密化した拠点都市で疫病が蔓延し、餓死者が続出するような歪(いびつ)な国に突き進むのか。今が正念場である。今後の議論に期待したい。
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