遊びと家の手伝い【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第258回2023年9月28日
私の故郷山形の田植え、今は5月の連休の時期だが、私の幼い頃=戦前昭和のころの田植えは6月半ばだった。そして、4月から5月にかけては堆肥まき、牛での耕起・代掻き、畑は耕起と夏野菜の播種、育苗の作業に追われていた。
朝飯前の仕事が終わる頃、子どもは眼を覚まし、いっしょにご飯を食べ、一休みして大人は家の留守番をする祖母と幼子を残して田畑に出発である。4~5歳になった私たち子どももそれについてて行く。そしてセリ、ヨメナ、ナズナ、ツクシ、もづんくさ(餅草=ヨモギ)、ノビル等々を採る。これが子どもの仕事だ。とくにナズナは、セリのように田んぼに行かなくとも家の近くの畑や空き地、道路脇などに生えているので、よく遊びかたがた採ったものだった。
しかし、こうした野草はくせがあるので子どもたちはなかなか食べられない。とくに木の芽(アケビの新芽)などは苦くて食べられない(註)。食べるのは大人である。子どもにとって春の味は苦い味だった。それでもよく採ってきたとほめられたり、うまいうまいと大人が食べてくれたりすると気分がよかった。
雪が溶けて田んぼでセリ取りをするころ、バケツをもっていってツブ(たにし)捕りもする。このツブのからを潰して身を取り出すまでは子どもの仕事だが、この酢味噌和えは動物蛋白の不足している私たち子どもの大好物だった。
そのうち、もっとも早い野菜、五月菜とか茎立(「くぎだづ」と呼んだ)とかのアブラナ科の葉菜が食卓に上るようになる。その頃になると野草も大きくなって食べられなくなる。
夏には田んぼの脇の小川(用排兼用水路)に網をもっていってどんじょとり(ドジョウ捕り)、ざっこしぇめ(雑魚つかまえ)をし、多くとれたら夕ご飯のおかずにした。だけどおかずにできるほど捕れるなどというのはめったになく、結局遊びで終わることがほとんどだったが。
秋にはイナゴ捕りだ。これは佃煮にして食べる。甘くて本当においしい。大好きだつた。
また落ち穂拾いがある。稲刈りや棒掛けが終わった後の田んぼで落ちている穂を拾い、家にもって帰る。
このように食べられる草や芽を採る、拾い集める、役に立つ虫や魚を捕まえる、これは子どもの仕事だったが、遊びでもあった。採取や狩猟をなりわいとしてきた人類の先祖の血が騒ぐのか、人間の本能がそうさせるのか、ともかく子どもたちは採ったり捕まえたりするのが大好きである。だからけっこう楽しかった。
また手伝いを遊びに変えたり、さぼって遊んだりもした。遊んでいてもきつく怒られたりはしなかった。幼い子どものこうした仕事は必要不可欠なものではなく、遊びの一つとしてやらせる程度のものでしかなかったからである。
幼かった頃のこと、西の空が曇ってくる。群れて遊んでいた子どものなかの一人がそれに気が付く。そして節をつけて大きな声で叫ぶ。
「にしくもた あめふるは」(西が曇った 雨が降るよ)
そうなのである、西の空が曇ると天気が悪くなる。いっしょに遊んでいたみんなが西の空を見る。黒い雲が西からこちらに向かって近づき始めている。そこでみんなで声を合わせて歌う(歌といえるようなものではないのだが)、
「にしくもた あめふるは」
みんなで歌いながら、急いで走って家に帰る。黒雲でうす暗くなっている家の中に飛び込む。
外を見ると白く乾いた地面にポツリポツリと雨粒の跡が黒く付き始め、それがみるみるうちに増えてくる。雨音が大きくなる。
間に合った、雨にぬれる前に帰れた、ほっとして、外の道路や庭に雨水が川をつくって流れているのを眺めながら、さて家の中で何をして遊ぼうかと考える。
杉の枯れ葉、これは風呂やかまど、いろりなどのいい炊き付けになる。だから燃料店で売っていたのだが、それを節約するために近所の寺社などの庭に植えてある杉の木の落ち葉を拾いにいく、そしてそれを南京袋に詰める。これも子どもの秋の手伝いだ。
近所の子どもも拾っている。拾いながら子どもたちは声をはりあげて歌う(というより風の音に負けないように大声で怒鳴ると言った方がいいのかもしれないが)。
「にしのやまがら かぜごーんご ふいでこい」
ちょうど西風=季節風の強くなる時期、風がゴーッと吹く。そしてパラパラと落ちてくる。子どもたちは唄の効き目があったと喜んで拾う。
杉の葉がなくなる、また歌う、時々はサボって別の遊びをしながら、また歌う。
袋いっぱいにして帰ると、台所で夕食の準備をしている祖母に褒められる。うれしくなって明日も拾いに行こうなどと考えながら井戸で手を洗い、家にあがる。
もうすぐ夕ご飯、それまで家の中でもう一遊びだ。
重要な記事
最新の記事
-
埼玉県内で鳥インフルエンザ 国内11例目2024年11月25日
-
【JA部門】全農会長賞 JA山口県 「JAならでは」の提案活動で担い手満足度向上 TAC・出向く活動パワーアップ大会20242024年11月25日
-
5年ぶりの収穫祭 家族連れでにぎわう 日本農業実践学園2024年11月25日
-
鳥インフル 米イリノイ州、ハワイ州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年11月25日
-
「JA集出荷システム」と生産者向け栽培管理アプリ 「AGRIHUB」をシステムで連携 農業デジタルプラットフォームの構築目指す JA全農2024年11月25日
-
卓球世界ユース選手権 日本代表を「ニッポンの食」でサポート JA全農2024年11月25日
-
佐賀県産「和牛とお米のフェア」みのる食堂三越銀座店で開催 JA全農2024年11月25日
-
JA全農×農林中金「酪農・和牛の魅力発信にっぽん応援マルシェ」新宿ルミネで開催2024年11月25日
-
EXILE NESMITH監修 くまもと黒毛和牛『和王』の特別メニュー提供 JA全農2024年11月25日
-
「第1回全国冷凍野菜アワード」最高金賞のJAめむろなど表彰2024年11月25日
-
「熊本県産和牛とお米のフェア」大阪の直営3店舗で12月1日から開催 JA全農2024年11月25日
-
都市農業・農地の現状と課題 練馬の野菜農家を学生が現地調査 成蹊大学2024年11月25日
-
食育イベント「つながる~Farm to Table~」に協賛 JQA2024年11月25日
-
薩州開拓農協と協業 畜産ICT活用で経営の可視化・営農指導の高度化へ デザミス2024年11月25日
-
「ノウフクの日」制定記念イベント 東京・渋谷で開催 日本農福連携協会2024年11月25日
-
省スペースで「豆苗」再生栽培「突っ張り棒」とコラボ商品発売 村上農園2024年11月25日
-
在ベトナム農業資材販売会社へ出資 住商アグロインターナショナル2024年11月25日
-
楽粒の省力検証 水稲除草剤の散布時間の比較 最大83%の時間削減も 北興化学工業2024年11月25日
-
【人事異動】北興化学工業株式会社(12月1日付)2024年11月25日
-
幼稚園・保育園など996施設に「よみきかせ絵本」寄贈 コープみらい2024年11月25日